幼少期に神殿に預けられ、神官として育った宰相の庶子シア。突然呼び戻されたあげくに、春をひさぐ仕事をしているという濡れ衣を父から着せられてしまいました。そのような仕事をするくらいなら、王の近侍として、場合によっては夜を共にせよと命じられます。実際にあった王は宰相との不仲を隠そうともしないのですが……。
主人公であるシアが、王の夜伽役として送り込まれる場面から始まります。初対面の王は殺気を隠さず歴戦の兵そのもの。宰相が送り込んできた近侍への警戒もあらわな王に対し、シアは誠実に向き合います。警戒と困惑から始まる二人の距離がじわじわ変化していく過程がとても良く、信頼と情愛の芽生えを自然に感じることができます。
物語全体の構成も巧みで、宰相の目論見はなにか、王の置かれている立場とはどういったものなのか、味方はいったい誰なのか――次々に提示される謎とその答えはさらなる謎を呼び、読者の興味を切らしません。王権の乗っ取りという大きな陰謀が二人の出会い以前から動いていたという設定が、物語のスケールに厚みをもたせているのも魅力です。
キャラクター描写も上手で、実直で誠実なシア、そして王としての威厳と脆さを併せ持つアルドリク――どちらも魅力たっぷり。そしてみんな大好きな精霊もかわいいが具現化した形で登場します。運命共同体となった二人が、仲間を増やしながら、どのように難局を乗り越えていくのか楽しみです。
陰謀、主従、謎、そして少しずつ育つ信頼関係、その全部が詰まった続きを読まずにはいられない物語です。