第2話 基本の拘束

〇少女の家(台所)


SE//食器を片付ける音(皿とスプーンのカチャカチャ音)

SE//カップに温かい紅茶を注ぐ音


「はい、お茶をどうぞ、ニンゲンさん」

「あっつあつですからふーふーしてから飲んでくださいね?」


SE//カップを二つ机に置く音


「ふふ。よかったです」

「スープもパンも残さずきれいに食べてくれて」

「……体調は悪くないみたいですね?」


「へっ? はい。わたしもご飯は食べます、……よ?」

「あっ、もしかして……、ニンゲンの恐怖が主食だと思ってた、とか?」

「違います、『バァム』はそういうのじゃなくて、なんていうか……」

「こう、……大人の嗜み? みたいなもの、で」

「だからこそ『バァム』を味わったことのないわたしは……、

 一人前になれない落ちこぼれ……、なんですけど……」


SE//少女が自分のカップを持ち上げる音。


「ふー、ふー、(冷ましてからお茶をすする)」


SE//カップを置く音。


「あの……、本当にいいの……かな」

「あなたで、……怖がらせる練習をしちゃっても」


「あっ、ありがとうございますっ」

「あの、……じゃあ、さっそくなんですけど、今から……、少しだけ……」

「ええと、実は、あなたが寝ている間に、ちょっとだけ準備しちゃってたりして」


「……うぅ、笑わないでください」

「わたしだけやる気満々みたいで、恥ずかしいじゃないですかぁ……」

「でも、『背中の腕は冷えたうちに振れ』って言葉もありますし……!!」


(仕切り直すように)

「――こほん」

「じゃあ、こっちの椅子に座ってもらっていいですか?」


SE//木の椅子が軋む音(背もたれのない椅子)


「……わたし、思うんですけど」

「体の自由を奪われるのって……、怖いですよね、ニンゲンさん?」


SE//鎖の音(じゃらりと見せびらかすように)


「だから、……これであなたを、縛っちゃいますね、ニンゲンさん」

「あっ! 安心してください! 痛いことはしませんから……!」

「じゃあ、まずは……、右の手首と左の手首を……」

「そう、そうやって合わせてこっちに出してください」


SE//鎖の音


「次は、足……、膝をぴたっとくっつけて、……そう、ぎゅって閉じてください」


SE//鎖の音


「……どうですか? これで、簡単には逃げられませんよ」

「どんなに抵抗しても、――――わたしが絶対に逃がしません」

「ふふ」

「……あっ、あっ、ご、ごめんなさい、なんだか偉そうなことを……」

「なんていうか、こう言ったほうが、それっぽくて怖いのかなって……」


(椅子の周りをゆっくり回りながら)

「……えっと、窮屈じゃないですか?」

「……って、自分でやっておいて聞くの、変ですね……」

「怖い、ですか?」


「――やっぱり怖くないんですね……」

「うぅ、もっと、ニンゲンさんを追い詰めて恐怖に震えさせなければ……!」


(正面に戻って)

「こほん。――でも、ニンゲンさん」

「まだ自由に動かせるところ、――ありますよね?」


(顔を覗き込むように近付いて)

「ほぉら、ここですよ」

「そう。目もふさがなきゃいけませんね」

「だから、次は、……目隠し、しちゃいますね」


SE//布の擦れる音(しゅる、と目隠しをされた)


「これで、……真っ暗、ですよね?」

「助けを叫んだってだぁれも来ません。なぁんて、ふふ」


「ニンゲンさん。これからわたしがあなたに、……何をしちゃうと思います?」


「ふうっ」

「ふふ、息がお顔に触れちゃいましたね」

「……こんなに近くにいると思わなかったでしょう?」


(戻って)

「それじゃあ、今から、――何をされても、動いちゃだめですよ……?」


SE//背中の触手が伸びて来る音(ぬちゅり、という音が近付く)

SE//椅子の軋む音(聞き手が身をすくめた)


「……びくってしましたね、ふふ。動いちゃだめっていったのに」

「冷たかった……、ですか?」

「今……、ニンゲンさんの手に触ってるの、……何だかわかります、よね?」


SE//ぬちゅぬちゅと粘性のある音。(手に触手が近付く)


「はい、正解です。私の背中の腕です」

「あ……、それ、気付きました?」

「そうなんです、吸盤があるんですよ」


SE//吸盤が肌に吸い付く音


「……ぴたってくっついちゃうの、……ちょっと、恥ずかしい、かも……」

「って、そんな弱気じゃダメです……!」

「……ほーら、ニンゲンさん。このままくすぐっちゃいますよ?」

「こちょこちょ、……こちょこちょ。こちょこちょ、……こちょこちょ」


「……うぅ。我慢強いんですね……?」

「えっと、えっと、怖くないですか?」

「――……いえ、答えなくてもわかってます」

「もしあなたが恐怖を感じているなら、今この瞬間だって、『バァム』がこぼれ落ちてくるはず、だから……」


「うぅん。どうしましょう」

「そうだ。耳もふさいじゃいましょうか?」

「暗闇の中で、何も聞こえなくなったら……、さすがに、怖い……ですよね?」

「どっちからふさいでほしいですか?」


(右耳に囁く)

「右?」


(左耳に囁く)

「それとも、左?」


(答えを聞いた感じで)

「わかりました」


SE//粘性のある音(「『両方』の耳を同時に包み込む感じ)


「ふふ。両方同時にしちゃいました」


SE//粘性のある音が続く(ぐちゅぐちゅしているが、耳の穴に侵入はしていない)


「ほら。私の声も遠くから聞こえて……、不安になりませんか?」

「ふふ」


(耳から触手を離して)

「それから、このまま首までぎゅうってしちゃったら……」

「どうなっちゃうんでしょうね、ニンゲンさん……?」


SE//粘性のある音(首元を這う)


「ほら……、ほらぁ……」

「わたしの背中の腕を、あなたの首にゆーっくり這わせていってるのが、

 ……わかります?」


「……あ、あの、助けてとかやめてとか言ってくれないと、

 このまま……ぐるぐるに包んじゃいますよ……?」


「なんで黙ってるんですかぁ……」


「…………ううぅ。わたしのほうがびくびくしちゃってる……」

「……もう、降参です……!」


SE//布を取る音(目隠しを外す)

SE//鎖を取る音(手首・足首それぞれの鎖を外す)


「あなた、やっぱり全然怖がらないんですね……」

「それとも、わたしが底抜けにダメダメってこと……?」

「こんなんじゃ、ずうっと、……落ちこぼれのまま、なのかも……」


「あっ、……ごめんなさい。こんなことにつきあわせてしまって」

「あの、次こそはもっと上手に出来るようにしますから……」


「また、一緒に練習……してくれますか?」


「ふふ。……ありがとう、ニンゲンさん」

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