自販機で何買おう。
αβーアルファベーター
自販機で何買おう。
◇◆◇
ハロウィンの日の夜十時。
パーティー帰りの僕は、
暗い裏路地の自販機の前で立ち止まった。 「ハロウィン仕様の自販機、いいね」
「……自販機で何買おう」
ぼそりとつぶやいた声が、
夜の空気に溶けて消える。
ラインナップは普通だ。コーラ、
緑茶、コーヒー。見慣れた缶が並んでいる。
けれど、一番下の段。見覚えのない商品があった。
『あなた』 120円
白地に黒文字。ただそれだけのラベルが貼られた缶。
缶の色は、見ていると何色とも言えず、
角度を変えるたびに少し違って見える。
「ハロウィンキャンペーン商品かな……?」
首をかしげつつも、僕は小銭を投入し、
迷った末にそのボタンを押した。
ガコン、と落ちてきた缶。
拾い上げると、冷たく、やけに重い。
プシュッ。
タブを開けると、
白い蒸気がもくもくと立ち上った。
鼻を近づけると、自分の部屋の匂いがする。
布団の匂い、シャンプーの匂い、
そしてかすかに汗の匂い。
「……なんだこれ」
一口、飲んだ。
次の瞬間、喉の奥から吐き出した。
液体の味は、まるで―― 自分の舌を噛み切ったような、血と肉の味がした。
缶を落とす。
床に転がった缶は、もう「あなた」ではなく、こう書き換わっていた。
『僕』
背筋が凍る。
――カチャリ。
後ろで、自販機が勝手に動いた音がした。
振り向くと、空になった商品スペースの奥から、ずるりと何かが這い出てくる。
僕と同じ顔をした“僕”が。
その口が、僕と同じ声でつぶやいた。
「……自販機で、何買おう」
◇◆◇
次の日の朝、その自販機の
ラインナップに新しい商品が加わっていた。
『君』 120円
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます