第5話 罰
しかし真宵の指示とはいえ齢14の少女にあれは酷すぎたとは思う。何かきっかけがないと立ち直れないだろうなぁ。友保経由でなにか──
……待て。俺はこんなに薄情な人間だったか?自分がやった事で人が傷ついて塞ぎ込んでいるのに、なんで何も感じないんだ?
確かに真宵との日々のせいで心はかなり欠落してしまっているが人を傷つけて平気な人間ではなかったはずだ。
帰ってきた時も、多少の罪悪感こそあれど眠気が勝つほどに──傷つけてしまった彼女たちに対しての感情が湧かなかった。
俺の心を改造しやがったなあの女……!
「すまん阿久津お待た……怖っ!えっ、なんでそんな怒ってんの!?俺なにかした!?」
「いや、なんでもない。大丈夫」
「ほんとかよ……何かあったら言えよ?」
「おう」
授業を聞き流し、昼休みに入った瞬間に教室を出て真宵が待っている空き教室へと向かう。
「あれ?早いねあっくん。何かあった?」
「真宵」
「どうしたの?そんなに情熱的に見つめて」
「俺の心を今すぐ元に戻せ」
「……気付いちゃった?」
こいつは異常だ。人の心すら改造出来るのもそうだが、それを行っても何も感じない程度に精神までぶっ壊れてやがる。
「罪悪感とか良心とか残しちゃうと傷ついちゃうって思って。かなーり薄めにしといたんだよそこらを。もちろん全部終われば元に戻すよ?でも今戻すのは……」
「今、戻せ。あの日覚悟を決めてんだよこっちは。自分がした行いに責任を持たせろ。俺は苦しまなくちゃいけないんだ」
誰かを傷つけたならば、その分傷つかなければいけない。正義の味方と敵対するならば、傷を負う責任から逃げてはいけない。
「……分かったよ。じゃあそこ座って」
促されるままに椅子に座り、襲ってくる眠気に抗わずに意識を手放す。
「苦しまなくちゃいけない……か。私には分からないなぁ何も。でも気持ちよさそうだなぁ。あっ、いーこと思いついた」
微睡みの中で、そんな声が聞こえた気がした。
次に目が覚めた時、罪悪感やら良心やらで心がぐちゃぐちゃになっていた。真宵から手渡されたビニール袋の中に胃液を吐き出し、衝動のままに腹を貫通させてようやく落ち着く。
「あー、よし。落ち着いてきた、落ち着いてきオロロロロロロ」
「全然落ち着いてないじゃん。ほらエチケッツ袋に吐いて」
「ケッツってなんだケッツって。そもそもなんで全裸なんだお前」
こいつの全裸なんてもはや見慣れきっているがこの状況で全裸になる意味が本当に分からない。
「あっくんに食べてもらおうと思って」
「……は?」
「あっくんが魔法少女と敵になったのは私のせいだからね。私にも罰が必要でしょ?生きたまま体を食べられるのは充分な罰に──」
「本音は?」
「食べられてみたい」
「だろうな。らしくもないこと言いやがって」
……しかしカニバリズム自体は毎日やらされてるけど生、生かぁ。直で食うのか俺今から。きっつー。
「生が嫌な場合はこんがり焼かれてくるから安心してね。私の叫びがトッピングだよ♡」
「生で……うん。いいよ」
火炎放射器を持って横でスタンバっていた母ロボが悲しそうな顔を浮かべて火炎放射器をしまう。いや流石に目の前で焼かれた人間食えは無理だって。
「いつでも食べていいよあっくん。おすすめはお腹とかふくらはぎ、あとは眼球とかかな」
「せめて静かにしてろ」
少し食べ進め、右脇腹も残りわずかと言ったところで声がうるさすぎるので喉を噛みちぎって黙らせる。
これどこまで食えば解放されるんだろうな。舌も改造されてるせいで吐くほど美味いけど心が叫びたがってるんだ。
途中で母ロボがやりたいことがあると出かけて行った。俺も連れて行って欲しかったかな。
「ィ、ァ、ァハ」
真宵は喉を噛みちぎってなお何かを喋ろうとしていた。怖い。
──side友保
学校が終わり、帰宅する。阿久津は昼休みが終わっても帰ってこず、心配になって連絡したがまだ返信は返ってきていない。
前にもこんなことがあった時は遊びに出かけていたと夜に返信が来た。もしかして今日も学校を抜け出して遊びに出かけたのだろうか。誘って欲しかったなそれなら。
そうやって普通の自分を何とか装いながら、震える足で部屋の前に立つ。
「遥、大丈夫か?」
目の前にあるのは、妹の部屋だ。
『お兄、ちゃん?』
今にも消えてしまいそうな、か細い声だった。
「学校休んだんだって?珍しいな優等生のお前が」
『どうしても、行きたくなくて……』
「攻めてる訳じゃないぞ?遥も知ってるだろうけど俺も中学生の時は学校休みまくってたからな。今まで頑張ってたんだし、少しくらい休んだっていいだろ」
『……』
返事が返ってこなくても、俺は話を続ける。
「……家は壁が薄いからさ、聞こえてきたよ。私は無力で何も出来ないんだって言うお前の声が。俺はさ、それをどうにかしてやることなんて出来ない。魔法少女関連なんだろ?」
『……』
「あ、こんなこと言いたいんじゃないんだ。その……だな。お使いに、言ってくれないか?」
『……お使い?』
「そう、気分転換にさ」
返事を、ゆっくりと待つ。こんなことに意味があるかは分からない。それでも部屋で自分を罰し続ける妹の気分を少しでも変えたいのだ。
ガチャりとドアが開き、外行きの服に着替えた妹が出てくる。
「ごめんね、心配かけちゃってて。行ってみようと、思う」
何かが良くなれと願いつつ、買ってくるもののメモとお金を手渡す。
「行って、きます」
三日ぶりに見る妹の笑顔は、酷く作り物めいていた。
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