第6話 お姉さん
──side遥
なんで外になんて出ちゃったんだろ。
そんなことは無いはずなのに、周りを歩いている人が私のことを失望した目で見ているように思えて仕方がない。
前から、後ろから、横から、至る所から見られている気がする。
こんなことなら、出なければ……でも、お兄ちゃんが折角頼んでくれんだし……。
心配、かけちゃってるだろうな。お兄ちゃんにも、お母さんにも、お父さんにも。澪も家まで来てくれたのに、顔を合わせることすら出来なかった。
『依茉と修行してもらえることになった。遥の分も頼んである。一緒に行かない?』
ごめんね、澪。行けそうにないんだ。
『……そう。いつでも連絡して。先で待ってるから』
……私、追いつけるかなぁ。
澪との会話を思い出しながら、視線から逃れたくて下を向いて歩く。
ドン!
突然起きた衝撃に耐えられず、尻もちをつく。
お尻を擦りながら目線を上に向けると、強面のお兄さんが私を睨んでいるのが目に入る。
「ひっ、あ……す、すみませ」
「おい嬢ちゃん、誰にぶつかって──」
「なにしてんのー?」
私でも、お兄さんでもない。第三者の声が耳を打ち、声が聞こえた方へと目を向けると背の高いギャルファッションのお姉さんが立っていた。
「んー、おにーさん駄目だよー?こんなちっさい子に怒ったら。おにーさんも歩きスマホしてたんだからさ」
「あァ?お前には関係ねぇだろ」
「いや確かに関係はないよ?ないけど……向こうの怖ーいおにーさんがおにーさんのこと睨んでるよって伝えたくて」
「……チッ。気をつけろよガキが」
そんな捨て台詞を吐き、お兄さんが去っていく。
「大丈夫?お嬢ちゃん」
ま、また……何も、出来な、かった……。
金曜の光景がフラッシュバックして、体が震え出す。呼吸も荒くなり、吐き気が喉の奥からこみあがってくる。
「ちょっ!大丈夫!?きゅ、救急車呼ぶ!?」
「きゅ、救急車は、呼ばないで、ください……心配、かけたく、ない」
「あーもう!」
気付けばお姉さんの胸にギュッと抱かれていた。優しい声色で、私を落ち着けようとしてくれる。
「大丈夫、大丈夫だよお嬢ちゃん。貴方は一人じゃない。私がいる。何があったのかは知らないけど。私は味方だからね」
不思議と、その言葉はスっと胸に入ってきた。荒れていた心が、ゆっくりと落ち着いていく。
「ご、ごめんなさい。迷惑、を」
「んーん。私が助けたいから助けたの。ごめんなさいなんて聞きたくないなー私」
「あり、がとう、ございます。お姉さん」
「ふふ。どーいたしまして!」
◈
近くの公園のベンチに座り、お互いに自己紹介をして話をする。
お姉さんはゆかりと名乗り、私の悩みを親身になって聞いてくれた。
「自分だけが何も出来なくて、無力感でいっぱいになっちゃってんのかー……。ごめんね、私にはそれを一発で解決出来るような言葉は見つからないな。私でも引きずりそうだし」
「そう、ですよね」
「……だから、私なりに遥ちゃんを救ってあげる」
「え?ひゃっ!」
急にお姉さんが私の手を取り、何処かへと歩き出す。
「知ってる?遥ちゃん。人生で辛くなった時はね、今までの楽しかった思い出が心を支えてくれるんだよ。遥ちゃんにもあるでしょ?友達の楽しい思い出とかさ」
「あります、けど」
澪たちと遊園地に行った時とか、澪と一緒にアリシアさんと花蓮さんのデート尾行した時とか、BBQに行ったり、カラオケに行ったり、花火大会に──
「人生を支えてくれる思い出、今から私と増やしちゃおっか!」
そう言って、お姉さんに誘われるままに私は色んな所へ連れ回された。
──商店街
「まずは買い食いしちゃおう!お金はお姉さんにまっかせなさい!」
「い、いいんですか?」
「いいのいいの。ほら、たこ焼き食べよ」
お姉さんは相当たこ焼きが好きなのか、私がお姉さんにお金を貰い他の食べ物を買ってる間もずっとたこ焼きを買っていた。
最終的に六種類くらいのたこ焼きを買い、幸せそうな顔で堪能していた。
──ゲームセンター
「ゲームセンターと言えば!そう!クレーンゲームだよね!遥ちゃん欲しいのある?お姉さんが取ってあげよう」
「え、じゃああのちい〇わのぬいぐるみを」
「お任せあれ!」
そう言って4000円くらい投入したのに全然取れず、お姉さんはどんどんへにゃへにゃになっていった。
「おかしいよぉ……こんなの絶対おかしいってぇ……なんでぇ……?」
「私も一回やってみていいですか?」
「いいけど……私が4000円使っても取れなかったんだよ?一回では……」
「あ、取れた」
「なんでよー!」
お姉さんは表情がコロコロ変わって、見ているだけで楽しくなる人だった。
「次はマリオカ〇トやるよ!私のドライビングテクニック見せてあげる!」
レース前はあんなにはしゃいでたのに。アイテム運がなかったり、シンプルに下手だったりで最下位になったお姉さんが面白くって。
つい笑みが零れた私を見て、お姉さんは優しい笑顔を浮かべていた。
──海
「見て、遥ちゃん。この美しい貝を」
最後は海に来て、誰もいない静かな海でお姉さんとはしゃぎ回った。
「待てー!遥ちゃーん!」
追いかけっこをして。
「下全部脱いだら海入れるかな」
「やめてください」
ズボンを脱ごうとしたお姉さんを止めて。
「見て遥ちゃん。お城」
「山にしか見えないです……」
数年ぶりに砂遊びをした。
あっという間に日が落ちて、気が付けばいつもなら夜ご飯を食べる時間になっていた。事前に連絡はしてあるので帰りが遅くなっても怒られることはないけれど、遅すぎると心配させてしまうだろう。
だから、次で行く場所が最後になる。今度は私がお姉さんの手を引き、歩き出す。
見せたい光景が、お姉さんと一緒に見たい光景があるのだ。
◈
「綺麗だね」
眼下には、煌びやかな夜景が写っている。
「ここは澪……私の友達が教えてくれた場所なんです。お姉さんと、一緒に見たくて」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん遥ちゃん。最っ高の景色だよ」
「そうですか?良かったぁ」
「ふふ」
「どうしたんですか?」
「自然に、笑えるようになったね」
「……お姉さんのおかげですよ」
まだ、心が完全に救われてきってはいないかもしれない。また、あの光景がフラッシュバックしてしまうかもしれない。それでも、今日の思い出と今までの思い出があれば、立ち上がれる気がしてくるのだ。
「今日は本当にありがとうございます。明日から、また頑張ってみようと思います」
「頑張れ、遥ちゃん。辛くなったらいつでも言って。その時は、世界の果てでもお姉さんが助けに行ってあげる」
NINEにゆかりと言う名前が追加される。
「また会おうね、遥ちゃん」
「はい!また会いましょう!ゆかりお姉さん!」
そう言って別れ……ずに、夜道は危ないからと家まで送ってもらった。
「今度こそ、またね」
「また!」
ひらひらと手を振ってお姉さんと別れ、玄関の扉を開ける。
「ただいま!」
元気になった姿を、早く家族に見せてあげなきゃ。
──sideゆかり
遥ちゃんと別れ、自宅へと帰るために周りに人が居ないのを確認してから体内のナノマシンを操って扉を作る。
あとはその扉に魔力を通して開けるだけだ。
「ただいまー」
「おかえり、母ロボ」
扉を閉め、ナノマシンに分解して回収する。
「真宵は?」
「向こうの部屋で再生してる」
「そっか……って、口の周りあっか!もー、拭いてあげるからジッとしてて」
「へいへい。遅かったけどなんかあった?」
「真宵が帰ってきたら話すよ」
「了解」
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