第2話 カドゥンラル・スルタンルウ〜女人の支配

「ハセキ・スルタン様、ヒュレカム様 ご機嫌よう」ヌール・バヌがうやうやしく、挨拶をする。


「うふふ、元気そうね」ヒュレカムは機嫌良く、にこやかに微笑した。

スレイマン大帝の正式な妃ヒュレカム


彼女が言う

「貴方は本当に綺麗で賢いわ、これからも私の息子、セリムの世話を頼むわ」


すると…今度はヌール・バヌが

「はい、ヒュレカム様…セリム様の為にも

心よりお仕え致します」

そっとヌール・バヌの艶やかな髪に頬を撫でた

そして、輝くような瞳を見つめ


「ああ、本当に輝くような瞳に肌、綺麗ね

光の姫…名前ヌール・バヌに相応しいわ」


後宮に来てから、間もなく


まだ10代始めの少女だったチェチーリアは

イスラムに改宗、改名してヌール・バヌとなり


ヒュレカムのお気に入りとなり、息子の妃にする為にヒュレカムに大切に育てられた。

「後で、また…中庭でね」「はい」


後宮の中、ヒレッカムにセリムと

中庭で過ごす為に茶菓子などの準備をするヌール・バヌ


「またフランスかイタリアの菓子が手に入ると良いのだけど」

「それともエーゲ海、パロス島の…」

ヴェネツィアとヴェネツィア領だったパロス島

自分の故郷をふと思い出す


「フランスのマカロンに南イタリアのレモンを使ったもの…」

懐かしい故郷の風景に大好きな故郷の菓子を

想い起こす

「コーヒー…」それに中東、トルコから伝わり

商業都市でもあるヴェネチアでも飲まれているもの


「クナーファ か焼き菓子のマアムールに

ミルクのプディングのムハレビ、デーツ(ナツメヤシ)の菓子も良いわ」


「飲みものはチャイにトルコ・コーヒーに」


「セリム様はまた、広場の方の中庭で飼われているガゼルやライオン、動物達の世話を手伝っているのかしらね」

「象も来るらしいけど…」



◇ ◇

オスマン帝国史上、帝国を繁栄に導いたスイレン大帝の妃ヒュレカム


稀なる待遇 本来の奴隷の身分から解き放たれ

正式な妃 ハセキ・スルタンとなった。


この出来事は

オスマン帝国の慣習を打ち破る程の事


つまりは

スルタン大帝からは熱愛された妃だった。


時に宮廷内の争いで、儚く消え去る事もある中


オスマン帝国の後宮で絶対的な地位だけでなく

帝国の支配にも多大なる影響を与える妃の登場


それはヒュレカムから

次のヌール・バヌ

セリム二世のハセキ・スルタン…

息子のムラトの母后(ヴァリデ・スルタン)


彼女に加えて

脈々と数世代、受け継がれる事となる。



後宮からの支配…中国の場合は

垂簾聴政(すいれんちょうせい)

とも言われる

垂簾(すいれん)の政(まつりごと)


※菓子

カナーフェまたはクナーファ

細麺状の生地を白チーズを挟み、焼き上げてから熱いシロップを沢山かけたデザート


マアムール

デーツ(ナツメヤシ)、クルミなどが入るクッキーのような焼き菓子

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