第15話 旅立ち前の挨拶回りと……?

「とりあえず2人のこの街での心残りとかを何とかしてくれ。その間に宿の引き払いとか冒険者ギルドでの諸々手続きと準備しておくから」


時刻は昼。


リエルとステラが支度のために(リエルは魔力量特化ステータス改善をユエに泣きつこうとしたがステラに回収された)、去った少しあと。


オレは二人にそう告げた。


「わ、わかりました!」


「私はカランの街には立ち寄っただけなので、活動地域の知人に手紙を書いて来ます」


ミレイユもエレスティアも慌ただしく去っていく。


「まだ滞在3日目で別の街へ行くフラグ立つとは……RTAかな?」


「その手のゲームならもっと速いだろ」


ユエのボケにツッコミ入れとく。


まずは宿の月下美人の受付さんことマッキーさんに挨拶。


「あれまぁ、1月って聞いて4人分前払いもらったのに1週間も使わずに引き上げるなんて。……泊まるときには返金できないって言ってたけど、さすがに少し返そうか?」


困惑からの申し訳なさそうな様子の問いかけにオレは首を横に振る。


「いや、問題ない。……いや、返金の代わりに最後に今夜の食事注文したときに人数分ミートパイと甘味をオマケでつけてほしい。無理なら何も求めるつもりない」


「それなら構わないさね。今夜楽しみにしてるといいさ」




――*――*――*――



「指名依頼受けてくださりありがとうございます!依頼金のおかげで支部の予算の心配がかなり減りました!」


受付さんが滂沱の涙とともにそう言ってきた。


「そう……にしても、支部長……責任者?はまだ戻ってこないの?」


ユエが首を傾げると、受付嬢が顔を引き攣らせる。


「……あの腐れ守銭奴はカランの街に厄災の海蛇が向かってると知るやいなやギルドの金庫から金を持てる限り持ち出して姿消しやがりましたから……。先日支部の冒険者の一人を王都へ事の顛末と支部長の後釜についてどうするかの手紙持たせて使者にしたので、現在は使者の帰還待ちです」


「はえー」


金持ち逃げとかやべーことやるやついるんだな……。


「にしても、Fランクが指名依頼受けるのはは私初めて見ましたよ。もしかしてお二人は冒険者になる前は何処かの凄い腕利きの傭兵や騎士だったり?」


「ノーコメント」 


「人には人の歴史があるからね」


オレとユエの言葉に頷く受付さん。


「詮索してごめんなさいね。――っと、お二人を含めた4人の冒険者の情報を確認して、全員問題なく移籍できるのを確認しました。王都で報酬受け取るついでに移籍申請してくださいね。でないと報酬を受け取るときにこちらと移籍先で二重に手数料取られたりして報酬減ってしまいますからね」


「ありがとう」


「街が復興したらまた来る」


「できれば復興手伝っていただきたいところですが。しかし指名依頼のおかげで支部も潤ったのも事実。引き留めにくいですね……」


そうまじめな顔でいったあと、


「まあ、人には人の人生がありますからね。その在り方を我々が止めるわけには行きません。――旅路の末に訪れる幸せを私は願っていますよ」


と笑顔を見せた。


「……」


「? それでは、失礼します」


ユエは何か言いかけたが、そのままその場をあとにした。




――*――*――*――


それぞれの支度を終えて夕食を4人で食べることになったのだが、ちゃんとマッキーさんがオレたちの注文に加え、ミートパイと焼き菓子が追加してくれた。


「あの門番の爺、味音痴だっただけ……?」


ミートパイを食べながらユエが首をかしげる。


ユエの言う通り、普通に食べ応えもあるし普通に美味い。


「え? なんか言われてたのかい?」


近くの席に座ってミレイユやエレスティアと話をしてたマッキーさんが耳聡く聞いてきた。


「……あそこのミートパイはマズイから辞めとけって」


それ聞いた瞬間はーっ、とため息つくマッキーさん。


「あの爺、あたしの母さんがこっぴどく振ったのずっと根に持ってるらしいんだよね。ミートパイは母さんのレシピなんだけど、そいつ振られた時しつこくしがみついてきて、顔面にミートパイぶつけて逃げたとか言ってたけど……40年以上引きずってるのは流石にねぇ……」


「それは……拗らせてますね」


「人に歴史ありと言いますが、面妖な歴史ですね……」


ミレイユとエレスティアが困惑してる。


「宿のミートパイ以外は良いって言ってたあたり、マッキーさんのお母さんに恋心まだ持ってるかも……」


「えぇ……母さん一昔前に流行り病拗らせて墓の下なのに??」


白目剥いてるマッキーさん。


「墓下だからこそ拗れたまま時が止まってるのかもね」


「……まあいいさね。頼まなかった人には今度から試食させるとするさね」


何気ないところから人の歩んできた歴史を垣間見れる。


向こうでは長らくそんなの見ることできなかった分、その人が実際にいることを強く感じることが出来た気がした。


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