猫カフェ(裏)にドハマりした少年の末路。

風遊ひばり

少年、君も癒されてみないかい?

まえがき


どうして連休は終わってしまうのか……。

現実逃避して新作投げます。


─────────────────────


『もしもし。わたくし出雲いずも君の担任をしております松井と申します』


「あら先生、いつもお世話になっております。……何かありましたか?」


『はい。夕食時にすみません……出雲いずも君の怪我についてなのですが……』


「あぁ、それなら出雲いずもに聞きましたよ。鬼ごっこをしていたら転んでしまったようで……先生にもご心配をおかけしてしまってすみません」


『……出雲いずも君からそう聞いたのですか?』


「えぇ……あの子、運動があまり得意ではないようなので……」


『そう、ですか……。お母様、そのことでお伝えしなければならないことがあるのですが……』


「なんでしょう?」


出雲いずも君の怪我、どうも鬼ごっこではないようなのです』


「……えっ?」


『放課中で見ていた先生はいなかったのですが、見ていたクラスメイトの話では、2人の男の子に追いかけられている途中に転んだのだと……』


「…………」


『私は保健室から知らせを受けて出雲いずも君と話したのですが、その時には『鬼ごっこをしていて転んだ』と……むしろ笑顔を浮かべていたぐらいだったので、ケガに気を付けてと諭す程度で終わったのですが……』


出雲いずもは学校でいじめられているのでしょうか……」


『分かりません。出雲いずも君に聞いても、否定するので……。詳細が分かりましたらまたお伝えしたいのですが……出雲いずも君はご家庭で学校のことについてお話しますか?』


「え、えぇ……それなりには。でも、追いかけられたとか嫌がらせをされているとかは何も……」


『やはりそうですか……何か本人なりに理由があって隠しているのかもしれません』


「先生っ、どうしたら良いのでしょうか……?」


『無理に聞き出そうとしたら、余計に意固地になって逆効果です。何気ない感じで学校の様子を聞きつつ、本人が言えるようになるまで辛抱強く待つのが良いかと……』


「わ、分かりました……」


『こちらからも、学校での出雲いずも君の様子をこまめにお伝えしていきます。協力して出雲いずも君をサポートしていきましょう?』


「ありがとうございます、先生……引き続きお世話になります」


『それではまた明日、学校で出雲いずも君をお待ちしておりますので……失礼いたします』


「はい、失礼します……」







「…………出雲いずも?」


「……? どうしたのお母さん」


出雲いずも、学校で……ううん、最近学校はどう?」


「学校は楽しいよ? 最近鬼ごっこが流行ってるんだ! でも僕走るの遅いから、すぐ捕まっちゃうんだけど……」


「っ……そう、何か変わったことはない?」


「うーん……あっ! 今日ね、漢字のテストで100点取って先生に褒められたんだよ!」


「そうなの……それはよく頑張ったわね」


「うん……♪」

















 本当は辛かった。何者でもない自分が。


 僕のお父さんは有名な俳優で、お母さんは音楽家だ。どんなことも完璧にできて、とってもすごい自慢のお父さんとお母さんだ。


 そんな二人の間に生まれた僕も大勢の人に期待されて、音楽もお芝居も……水泳や空手、習字だとかとにかく色々なことに手を出した。


 けど、そのどれもが中途半端で、お父さんやお母さんみたいなすごいことはできなかった。



 期待に応えられない自分が嫌になった。



 そんな風にうじうじしている僕が気に入らなかったのか、それともどんくさい僕が面白かったのか。クラスの子から嫌がらせを受けることもたくさんあった。


 でも、これをお父さんやお母さんに知られてしまったら、お仕事の邪魔になってしまうかもしれない。


 僕は、お仕事をしているお父さんとお母さんが大好きだから。



 だから、僕が少し我慢すれば———



 お母さんと学校の話をした翌日の夕方、日が傾き始めた道を、僕はトボトボと歩みを進める。ポケットの中では、ぐしゃぐしゃに丸められた紙が、カサカサと音を立てる。


 僕が思わずぐしゃぐしゃにしてポケットに押し込んだこの紙には、誰かが僕に対して書いた悪口が、これでもかと書かれている。


 ……もしお父さんとお母さんが知ったら、仕事どころじゃないかもしれない。だから友達にも先生にも、お父さんとお母さんにもなんでもない顔をして、自分の中にだけ押し込んでおく。



 ……誰かに話せたら、どれだけ楽になるだろうか———



「わぷっ……!」


「わわっ! あっ、大丈夫!?」



そんな風に思いつめ、前もろくに見ずに歩いていた僕は、どうやら人にぶつかってしまったようだ。


尻もちをついた僕が顔を上げると、そこには慌てた表情を浮かべる綺麗なお姉さんがいた。何か紙の束のようなものを片腕に抱え、何故かネコ耳と尻尾が見える。



「ご、ごめんね! 私が見てなくて……ケガはない!?」


「う、うん、大丈夫……です」


「本当? それならいいんだけど……さすがにこんな小さい子にケガさせたとかなったら、私どれだけ怒られるか……」


「僕の方も、あんまり前を見ていなくてごめんなさい」


「まあっ、なんて良い子……でも、なんでそんな寂しそうな顔してるの?」


「えっ……?」



 僕と視線の高さを合わせるようにその場に屈んだお姉さんは、じっと僕の目を覗き込んでくる。とても綺麗で大きな瞳に僕の顔が映り、なんだか気恥ずかしくなってしまった僕は思わず目を逸らす。



「ふむふむ……さては学校で嫌なことがあったな?」


「べ、別にそんなこと……」


「皆まで言わずとも分かっておる」



 腕を組んで、それっぽく口調を変えながらうんうんと頷くお姉さん。芝居がかった様子なのに僕の心のど真ん中を撃ち抜かれたようで、なんだか無性に悲しくなった。



「ま、こんな変な格好してるお姉さんにいきなり言われて、『なんなんだ』って感じだろうけど……嫌なことがあったらそれを発散しないとやってられないよ? どうかな、僕も癒されてみないかい?」



 そう言って、意味ありげにニヤリと口元を歪めたお姉さんは、抱えていた紙を一枚取って僕へと差し出してくる。


 それを受け取り覗き込んでみると、そこには———



「ネコに癒されるってのもいいもんだよ?」


「ネコカフェ『Kitten’s Gardenキトゥンズ ガーデン』……?」

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