第2話 ライラと王女エリーゼ

 ある日エリーゼは国王セリオスに思いがけない告白を行った。


「セリオス様、今までお伝えをしておらず申し訳ありませんが、私はある目的のために異星から派遣された人間です。この3年間で目的は既に果たしており、元の星に帰らねばなりません」


 エリーゼは目的の詳細を問われても極秘事項として答えなかった。セリオスは困惑し去られては困ると懇願した。彼女は表情を変えずに国王に言った。


「では、私の方で後継者に相応しい者を選び、鍛え、私と同等の能力を授けます。試験も受けさせます。それでいかがでしょうか?」


 国王は渋々承諾するしかなかった。

 かくして王位後継者の候補探しが始まった。


 エリーゼとキースは国内から三人の候補を選び出し、その内二人を宮殿に呼ぶことにした。一人目がライラであった。



 ✧ ✧ ✧



 ライラと母親がルミナセル宮殿に到着した。

 

「ようこそ、私達の宮殿へ。お待ちしておりました」


 国王セリオスと王女エリーゼが出迎えた。ライラと母親は目を見張った。噂通り、光る王女は絶世の美しさだった。


 場を謁見の間に移し、エリーゼが母娘に目的を説明した。


「お母さま、ライラさんに来てもらう事になった理由は、次の国王候補として選ばせていただいたからです。お母さまはご存知ないでしょうが、こちらで調べさせていただいたところ、ライラさんは潜在能力がとても高くて、人格も知能も王に相応しい人間になる素養があります」


 ライラと母親は、畏れ多いと恐縮しながらエリーゼの言葉を首を縮め視線を下げて聞いた。


「は、そうですか。ありがとうございます」


 母親とやりとりをしていた時、隣に座るライラは上目遣いにちらりとエリーゼを見て、その美しさと光に何度も圧倒されるのであった。


「ライラさんには一年間、こちらで教育を受けて頂いた上で、実質的な試験であります精霊の石、聖石(オーライト)を持ち帰る旅に出ていただきます。命の保障はありませんが、最悪、不慮の事態が生じても再生術により元気な姿でお返しいたします。無論、無事聖石を持ち帰った場合には、他の合格した候補とともに王女となっていただきます。よろしいでしょうか?」


「「は、はい」」


 ライラと母親に実質的に拒否権は無い。イエスと答えるのが精いっぱいだった。


「では、ライラさんを責任持って預からせていただきます。お母様はしばらく会えなくなりますがご心配なさらずに。何かご質問はありますか?」

「あ、あの……娘に潜在能力があるっておっしゃいましたけど、どのような……? とてもそんなものがあるようには思えないのですが……」


 母親が最後に気になっていることを訊いてみた。エリーゼは傍にいるキースに目配せした。キースは手元の書類をパラパラとめくりながら説明した。


「私から説明させていただきます。ライラ様はいわゆる白羽族、リトルウィングでいらっしゃいますが、調査の結果、変身なり超常能力なり持っている能力をまだ二割程度しか発現していないことがわかりました。幼い時に自力、無自覚で白鷺に細胞変異を行ったことからも分かりますように、驚くべきは稀に見る模倣能力を有しているところです。お母様自身には現れておりませんが、お母様の体には王女エリーゼ様と同様の特殊な遺伝子が組み込まれておりまして、それがライラ様にも受け継がれているのです」


「はあ、遺伝子ですか……それも王女様と同じなんて……」

「おそらくお母さまの先祖にもエリーゼ様と同じ異邦人がいらっしゃったのだと思います」

「なるほど……わかりました」


 母親は狐に包まれたような顔をして頷いた。


「あ、あの……くれぐれも娘を……ライラをよろしくお願いいたします」

「お任せください。立派な王女様になれるようにして差し上げます」

「ライラ、頑張ってね」

「うん、お母さんも元気で。手紙書くよ」


 母親はライラとしばしの別れを惜しんだ後、故郷に帰っていった。

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