Little Wing~可愛い冒険者は時々火を吹きます~

☃️三杉 令

第1話 異世界オーリア

 オーリアは進化した技術と幻想的な異能が入り混じった異世界。人々はまるで魔法の様な技術や変身能力を持っている。


 空には浮遊島セレヴィアが浮かび、鳥たちが優しい歌を奏でながら舞っている。


 王都ルミナセルの通りは硬い繊維でできており、周りの建物は曲線を多用した美しい形状で自然と建築が融合しているようだ。


 絶妙に配合された香りが風が乗って季節の記憶を人々に伝えている。歩いたり浮かんだりと、行き交う人々は思い思いのペースで移動している。


 十字路には約4メートルもの背丈がある守り人(植物型人間)が優しく人々を見守っている。


 そのそばをライラと彼女の母親が歩いている。


 母親が守り人の方に腕を上げて手のひらを向けると、守り人の枝から花が咲いた。母親がウインクするとその守り人は笑顔を返した。


 ライラが守り人を珍しそうに見上げ挨拶をする。


「こんにちは!」

「やあ、こんにちは。白羽の子(リトルウィング)だね」


 守り人も低い声でゆったりと挨拶を返した。


 ライラの明るいブラウンの長い髪が揺れて、丸くてやはり薄いブラウンの瞳が輝いている。


 まだ十六歳。そんな娘の明るい姿に母親が軽く顎を引いて、目を細める。


「ライラ、どう? 初めての王都は?」

「お母さん、すごい都会だね。ワクワクしちゃう」


 二人はまるで仲の良いカップルの様に、腕を組んで美しい街路樹の下を宮殿へと歩く。母親はその優しい表情とは裏腹に内心少し複雑な気持ちだった。


(ライラが栄誉ある冒険者に選ばれたのは嬉しいけれど、どうしてこんな平凡な子が……? 無事に帰って来られるかしら?)


 ライラは花を咲かせる能力を持った母親から生まれたごく平凡な幼子だった。母の愛情と能力のせいか優しく可愛らしい女の子としてすくすくと育った。


 特筆すべき点を挙げるとすれば、白い鳥に変身する能力を誰に教わるでもなく自然と身に着けたことだった。


 この地域では、多くの者に変身能力が備わっているが、白い鳥に変身する能力を持つ者は白羽(リトルウイング)と呼んで珍重されていた。


 なぜなら白羽は人間の姿のままでも宙を幻想的に舞うように飛ぶことができ、さらにはヒーリングなど様々な能力を持つからだった。


 母親は娘のライラが冒険者に選ばれた理由の一つが「白羽」だったからであることは理解しているが、他にも白羽の子はいるし冒険に有利になるようなところが無いのになぜ……という思いがぬぐえなかった。


「もうすぐ、宮殿に着くからね」

「うん、王女様に会えるのが楽しみ!」


 そう言うとライラは母親の腕をぎゅっと掴み、弾むように先を急いだ。



 ✧ ✧ ✧



「キース、そろそろかしら?」

「ええ、白羽の子リトルウイングがこちらに向かっております」


 宮殿内で王女エリーゼが従者のキースに冒険者候補の到着を尋ねている。


 王女エリーゼ――生きる伝説として若くして神格化されている絶世の美女。王の実の娘ではない。


 彼女が歩むだけで空気が柔らかく震える。髪は夜明け前の空を編んだような銀青色。瞳は藤色の湖のように深く、見る者の心を映し出す鏡のようである。


 白基調ながら角度により光沢が変化する繊維で仕立てられた衣は時折金色の光を帯び、儚くも優美な存在感を放っている。


 会話が終るとキースはエリーゼの傍で彼女の様子をくまなく観察した。実はキースは鷹に変身することができる。その監視能力は非常に高い。


(私は従者だからね、王女を観察するのは当たり前。勘ぐらないでください)


「いよいよご対面ね。ライラ、楽しみだわ」


 エリーゼは呟いた。


 高度に発達した科学技術と、超常的な能力を持つ人々の世界オーリアでもエリーゼは今までに見た事がない特殊な人物であった。


 およそ3年前、見た事がない楕円形のカプセルが宙から飛んできて地上に激突した。クレーターから見つかった光るカプセルの中には稼働中の人工子宮と受精卵が見つかった。


 わずか2ヶ月後、体重3キログラムまで成長した光る赤子が誕生した。


 光る赤子はオーリアの普通の人間の7倍の速さで成長した。エリーゼと名付けられたその子は1年で7歳相当に成長した。


 体から光を発するその子は見かけの美しさもさることながら、オーリア人を遥かに超える知性を持っていた。


 オーリアはいわゆる王政の国で構成されている世界であるが、王候補は広く人民から選抜される。


 1年が経過し14歳相当になったエリーゼはあらゆる人々から次の王の候補と相応しいと目され、やがて選抜試験に合格するとルミナセル王セリオスの王女(王位継承者)として宮殿入りした。


 どこか別の世界からやってきたであろうエリーゼであったが、そのような言わば移民に寛容なオーリア人は実力で王女を選んだのであった。


 3年近くなり20歳相当になったエリーゼの成長はそこで止まった。エリーゼの細胞はそこから老化しないようになっているようである。


 オーリアの技術では不可能な遺伝子操作がなされているのは確かだった。さらにエリーゼはオーリア人の中でも最高峰の超能力を持ち、知性も王に相応しいレベルに達していた。


 エリーゼはオーリアの最先端の細胞生成技術を用いて、一人の男性を作り出した。それが従者キースだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る