禁地教授の混沌たる事件簿

サドル・ドーナツ

『コトリバコ』

序論

「——さて、『箱』について話そう」


「仕切りで囲み外界から遮断して小さく密閉する——箱」


「伝承話には『見るなのタブー』が多く存在するが、箱もその中の一つと言える。パンドラの箱、玉手箱、雀のつづら等々……それ以外にも箱が重要なファクターになっているというお話は多い」


「それは現代においても同じだ。小説、映画、マンガ、ゲームで箱というのはいつだって重要なアイテムとして扱われている」


「長い歴史の中で、人は少なからず箱に対し畏怖の念を抱き続けていると言えよう」


「では、なぜだろうか? そこの君——大野君。考えてみてくれ」


「例えば、このさっき私が紙を折って作った立方体の箱、これが何らかのいわくつきの箱だったら。君はどんなところが気になるだろうか」


「——そうだね。真っ先に気になるのは『中に何が入っているか』だろうね」


「人間とは、未知と不可視——つまりは知らないことや見えないことを恐れるものだ。知らない人間や生物を見るのは怖いし、暗くて視界の悪い夜の中を歩くのだって怖い。それは本能に刻まれた恐怖だ」


「そうなると箱はその二つを見事に兼ね備えている。基本的には蓋を開けないと中は見ることができないし、真に箱の中身を知るものはその中身を詰めた者だけだ」


「まさに未知数ブラックボックスだ。それを開けるまで、答えは出ない」


「——しかし、我々はそのことに恐怖を覚えると同時に、どうしても好奇心を掻き立てられるのだ」


「無論、開けた結果がハッピーエンドであることは少ない」


「どの物語でも、結末は大抵一緒だ——」

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