第28話「役所の帯——証の見せ方と“責めない返戻”」

朝、石畳は乾いていた。

庁舎の扉は重い。窓口の声は低めで、紙の音がよく響く。

看板を撫で、閂に一滴。今日は役所を回す。


「窓口は帯にする」

レイナが見取り図に矢印を置く。入口——番号——窓口——裏の確認——交付。

「塔は写しと補助。指揮は現場。紙は道具で、主人じゃない」


ベルクは庁舎前の柱を指で叩く。

「第三騎士団は入口の空を持つ。楯は十五度で楔。剣は抜かない」


フィオは器を重ね、湯を回す。

「余白の粥は外階段の陰。終わりの合図は鐘一打じゃ重いな。今日は木槌一度」


ミロは来庁者に若草小旗と木の呼び鈴を渡す。

「半は旗ひと振り。声が埋もれたら鈴一打」


僕は玄関脇の掲示板に紙を貼った。


《役所の三行》

一:窓口の帯(受→空→返/四・二・四刻)

二:証の見せ方(黒地白字・斜め十五・角丸・胸台本三行)

三:責めない返戻(名で止める→直せるお願い→戻す路)


角は丸。黒地白字。赤枠二重。下に改めた名。

帯長は窓口長ラグナ、余白番は書記サラン、読み手ラース、見方停止路工房(ディオム)、歌い手は市童会。


さらに二枚。


《証の見せ方 S-ShowG(行政)》

黒地白字/斜め十五/上段太・下段中/角丸/胸台本三行/透け防止の裏紙


《返戻の半》

一:止めの号令(窓口の名)

二:半(若草/鈴一打/目線合わせ)

三:戻す路(琥珀:補正窓口/白:受理)

四:終わり(木槌一度/灯三瞬/器ひと重ね)


「回せる?」

ベルクが短く聞き、僕は頷いた。

「回さない歌・窓口版で合わす」


始業。

番号札はゆっくり回り、窓口の帯は素直に立ち上がる。

空で水が回り、椅子が一つ空く。

証の見せ方は斜めで反射が消え、台本は三行。

いい。今日は、いける——


青い箱が、番号機の台に載るまでは。


「申請最適匣(フォーム・ランナー)」

商会企画長サーレン。黒革の手袋、目は笑っていない。

箱の窓で針が踊り、側面に**『連続呼出/余白=損失/返戻=抑制』。

「紙は止めない**。番号は切れ目なく回す。返戻は後日へ逃がすのが最適」


ベルクの眉がわずかに動く。

「停止路義務」

「中央鍵がある」サーレンは肩をすくめる。「現場は捌くだけでいい」


匣が番号機を握り、空が薄くなり、返戻の口が遠ざかる。

窓口の声が速くなる。

——そして、謝りが始まる。

「後日また」「こちら不備で」。

終わりが来ない時、人は謝りで区切る。病院と同じ匂いだ。


「半!」

サランの若草旗。

届きにくい。呼び出しブザーが拍を上書きする。


ベルクの声が落ちる。

「ベルクの名で止まる!」

入口の楯が十五度で楔になり、入口の空が戻る。

歌い手が低く回す。


《回さない歌・窓口》

さきのな、とめ

あとのな、まつ

はん(若草/鈴いち)

こはく、なおす

しろで、うける

おわり、いちど


僕は匣の背面へ。蓋。蝶番。逆刻み界面。

あった。だが、嫌な針。

「後送り針」——その場の返戻を通知だけにし、直せるお願いと戻す路を切る仕掛け。

汚い。


「後送り針、外す。“戻す口”を表に」

ディオムが工具を渡す。

僕は後送り針を外し、前面に琥珀窓を出す。逆刻みを半歩戻す。

名を太く残す。


「申請匣・逆刻み:リオン/後送り針除去:ディオム」


若草半が通る。

琥珀——補正へ戻す路が見える。

白で受理。木槌一度。灯三瞬。器ひと重ね。

謝りは減り、直せるお願いが増えた。

息が戻る。


サーレンは目だけで笑った。

「速さが落ちる」

「戻れる速さは、最後に上がる」

喉は乾いていたが、言葉は出た。


昼の空。

フィオの粥。器が重なり、木槌一度が軽い音を残す。

レイナが紙を足す。


《名の灯り(窓口)》

帯長(窓口長)/余白番(書記)/読み手(案内)/見方(工房)/歌い手(市童会)

免除枠:救護/障/育児/老

——「返せるお願い」で名を出す。売買は無効。


ブラン(規格局)が頷く。「R1-行付録 RG1に責めない返戻と名の灯りを入れる」


午後。

**公開三分(窓口)**をやる。

条件は同じ。番号、申請、補正、交付。

A:連続呼出(後送り針)/B:窓口帯+責めない返戻+戻す路。

指標は四つ——停止/再開/怒号数/“謝り数→ありがとう数”。


A。

——停止、なし(だから長い)。

——再開、乱れ。

——怒号、二。

——謝り、多(ありがとう少)。


B。

若草半→琥珀(補正)→白(受理)。

——停止、早い。

——再開、短い。

——怒号、ゼロ。

——謝り、減(ありがとう増)。

窓口の声が落ち着き、目線が上がる。


ブランが板を掲げる。

「B式優。窓口帯/証の見せ方/責めない返戻/戻す路を必須に」


サーレンは鍵を持ち上げた。

ブランの声は短い。

「最終停止。名札穴は必須。名を先に」

サーレンは筆を取り、刻む。

「申請最適匣・担当:サーレン——琥珀窓/逆刻み口の採用に同意」

名は残った。


裏手。

紙の匂い。

「早番トークン」——番号を先に進める権利。隅に小さな官印。

出たな。


取り立て番ルオが黒地太字の免除枠を叩く。

「救護/避難/破損/育児。——名を出せ。返せるお願いで。売買は無効」

札束は掲示板の改めた名へ吸い込まれ、名の列へ。

ざまぁは、木槌が一度だけ澄む音。静かに、よく通る。


夕刻。

書庫の奥で、低い拍。

書証輪(しょしょうりん)——緩衝の輪の文版。

コピーと押印を途切れなく回し、原本を回せなくする罠。


「回さない輪・文」

僕は柱に紙を貼る。


《回さない輪・文》

一:止めの号令(書記の名)

二:半(若草/鈴一打)

三:戻す路(琥珀:補正/写し→原へ)

四:終わり(木槌一度/灯三瞬/器ひと重ね)


ディオムが輪の側面に白い印。

「“写しっぱなし”の口を外へ。逆刻みは原へ戻すに結ぶ」

ユーンが短く添える。

「詩なら**『半、もどす』**」


若草半。

琥珀で補正、白で受理。

書証輪の拍は、戻す路に吸われて小さくなった。


夜。

ブランの綴り本に新しい頁。


《R1-行付録 RG1》

必須:


窓口の帯(受→空→返)


証の見せ方 S-ShowG(黒地白字/斜め十五/角丸/胸台本三行)


責めない返戻(名→直せるお願い→戻す路)


三旗(白=受理/若草=半/琥珀=補正)


逆刻み界面(申請匣/書証輪)


終わりの合図(木槌一度/灯三瞬/器ひと重ね)

推奨:


息の指標(怒号/謝り→ありがとう/終わり回数)


透け防止の裏紙/眩光避け

現場枠:


椅子の材/窓口の高さ/補正ブースの広さ


末尾の改めた名。

「規格局:ブラン」

「停止路工房:リオン/レイナ/ディオム」

「第三騎士団:ベルク」

「市民:窓口長ラグナ/書記サラン/取り立て番ルオ」

「監:ユーン(臨時)」


サーレンは匣の縁を指でなぞり、低く言った。

「速さは、返せる時にこそ立つ」

「返せるお願いが、速さを作る」

彼は筆で名をもう一つ足した。小さいが、太い。


僕は庁舎の看板を撫で、閂に一滴。

今日を楽にする工房。

文字は軽い。

重さは小さく割って担ぐ。


明日は——議場だ。

条と規格の言い方そのもの。

式は短く、詩は太く、名は見えるを“言葉の帯”にする。


鈴を一打。

終わりの合図。

——回っている。


第28話ハイライト


役所に**《役所の三行》導入(窓口帯/証の見せ方/責めない返戻)+《返戻の半》**


サーレンの**《申請最適匣》が後送り針で“戻す路”を隠す → 琥珀窓の外出し+逆刻みで止まれる申請**へ矯正


公開三分比較:連続呼出は怒号増・謝り多/帯+返戻は停止短・再開短・謝り減・ありがとう増


裏口早番トークンは名の灯り+免除枠で無効化(静かなざまぁ)


書証輪(緩衝の輪・文版)を**《回さない輪・文》**で無力化(半=もどす)


R1-行付録 RG1確定:窓口帯/証の見せ方/責めない返戻/三旗/逆刻み/終わりの合図を必須化


次章は議場へ。言い方そのものを“言葉の帯”で設計する予定

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る