3章 王都襲撃 09

 あれから数分。

 きっかけを与えてしまったのか、ドルフとルミナスのイチャイチャは今なお続いていた。


 いやもう大変だねバルザックくん。

 いや待って。君可愛いし、バルザックきゅんって呼んでいいかな。呼ぶね。


 いやもう大変だねバルザックきゅん。

 仲間は敵の前でイチャイチャしてるし、名前は言われちゃうし。

 まあ別に隠してるつもりはないんだろうけど。


 これで残ってるエニスとそう言う関係じゃないとしたら、なんかもう色々と可哀そうすぎるよ。

 毎日のようにカップルのイチャイチャを見せつけられているわけでしょ?

 ノイローゼにならん?

 


「はぁ……こんな状況だって言うのに、なんか二人がごめんねぇ」



 な、なんてことだ。

 この状況でもまず第一に謝罪……だと?

 なんて健気な。善性の塊か彼は?


 天使。ああ、男の娘の天使だ。 

 ……それはちょっと心当たりがあり過ぎるな。



「別に、其方が謝ることでもなかろう」


「でも途中から話が聞こえてきてさぁ……君、ボクたちと戦いたいんでしょぉ? ならぁ、ドルフがこんな状態だとちょっと困るんじゃないかなって」


「確かにそうかもしれん。なに、それなら先に其方と戦えばいいだけのことよ」


「それじゃあ困るよぉ。だって……ボク、相当強いからねぇ」



 ……ッ!!


 どこぞの最強先生みたいな事を言ったかと思えば、いつの間にやらバルザックきゅんの背後に魔獣が現れている。それも数体。

 確か召喚系の魔法は同時に召喚できるのは一体までのはずだ。


 なるほど……この時点で彼が常識外れの力を持っているのは確定ってわけか。



「ドルフと戦う前に、君が駄目になっちゃうかもしれないでしょぉ?」


「ほう、言うではないか。いいだろう……其方の力、見せてもらうぞ」



 と、カッコよく言ったメリアちゃんだけど、その動きは相変わらず鈍い。

 仕方ない。だってこの鎧はもう本当に洒落にならないレベルでクソ重いんだ。


 なのでガシャンガシャン言わせながら一歩一歩ゆっくりと歩みを進める。

 それはもう牛歩。カウウォークだ。

 


「遅いね」



 うん、そうだけどさ。

 俺もメリアちゃんも分かってるから、そんなド直球に言うんじゃないよエルシーちゃん。



「仕方があるまいて。オレの錬成はあくまで物質と魔力の等価交換。重量を減らしたり性質を変えることはできんのだ」


「へー。何と言うか、思っていたよりも不便だね」


「……なぁに、その歩行速度。舐めてるのかな? なら、こっちから行くよぉ」



 俺の歩行速度があまりにも遅すぎるのにしびれを切らしたのか、バルザックきゅんは後ろに控えていた魔獣をけしかけてきた。



「ガガゥガゥ!!」



 まず最初、先頭を走っていた狼型の魔獣が飛び掛かって来た。

 当然、この状態では避けられるはずもないので……。



――ズドンッ



「ギャゥッ」



 地面から金属の柱を生やし、貫いた。


 とは言え、倒したのはたったの一体だ。

 バルザックきゅんの召喚した魔獣はまだまだいる。



「フシュルルル……」


「ギキキキ……」



 次に向かってきたのは蛇型の魔獣と、百足……いやヤスデか?

 とにかく虫型の魔獣の計二体だ。



――ミチッ、ギギギギギッ



 流石は長物同士、連携はぴったしと言ったところか。

 すぐさま黄金鎧装に巻き付いて行き、強く締め上げ始めた。

 このまま砕いてしまおうって言うんだろう。


 だが、この程度……!

 メリアちゃんの黄金鎧装の前には無力!!

 

 そして……!!


 

――ブチッ、ブチブチッ



 俺は腕力に物を言わせ、両魔獣を引きちぎった。

 見たか。金属の錬成と違い、肉弾戦に関しては俺の意思でもできるのだ!

 


「ギキィィッ!!」


「フシァァァッ!!」


「うわぁぁぁっ!?」



 何故かエルシーも悲鳴をあげている。

 身の捩り方が凄いな……もしかして蛇とか虫とか苦手だったのか?

 いやでも、それなら向かってきた時に反応するよな……。



「へぇ……やるね、君。でもぉ、これならどうかな……?」


 

 うわ、召喚された魔獣がどんどん増えて行く。

 そうかこれが増殖スキルの効果か。


 なるほど……これは強いな。それにとんでもなく厄介だ。

 ただでさえバルザックきゅんの召喚魔法は強力なのに、更にそれがスキルで増えるって。

 いくらなんでも無法が過ぎないか?


 こんだけの数がいれば攻撃だけじゃなく、肉盾にもできるし雑用にだって使える。 

 それこそ彼一人いれば、やろうと思えば一個大隊を構成することだってできるんじゃないか?



「ほう、それが其方のスキルの効果ということか。シンプルかつ強力だな」


「そうだよぉ。ボクのスキルは増殖。こうしてぇ、召喚した魔獣を増やすことができるんだ。能力とかはそっくりそのまんまなんだけどねぇ」



 むしろそのままの方が駄目だろ。

 こう言うのって分裂したらその分だけ弱体化したり制約ついたりするのが筋ってもんでしょ天津飯とかトゥワイスとかみたいにさ。

 どっかの紅い館にいる狂気の妹かお前は。



「だからぁ……こうやって、包囲網を作ることもできる」



 おっと、瞬く間に魔獣に囲まれてしまった。

 本当にとんでもない能力だな。


 俺がメリアちゃんじゃなければ危なかったぜ。



「ふむ、圧倒的なまでの制圧力だな。その点については紛れもない事実だと褒めておくとしよう。しかし、いくら数を揃えたところで無意味な場合もあると言うことを教えておいてやろう」



――ドズンッ



 地面から生えてきた大量の金属の柱が一瞬にして全ての魔獣を貫いた。


 これこそがメリアちゃんの強み。

 今みたいに盤面を制圧された状態でも、錬成を使った広範囲攻撃で無理やり状況をひっくり返せるのだ。



「……え? なぁにそれ……流石にズルじゃない?」


「フハハッ、其方も似たようなものだろう。御相子だ」



 なんてメリアちゃんは言ってるけど、威力的にも範囲的にも絶対に御相子じゃないと思うよ。

 向こうは魔獣召喚と増殖がメインウェポンなわけだけど、メリアちゃんは数ある技の内の一つだし。

 そもそも出力的に全然本気じゃないでしょ今の。



「御相子ねぇ……? ふふっ、困ったな。ボクじゃ勝てないかも」


「そうか? まだ分からんぞ。今のでオレの魔力が尽きた可能性もあるのだからな」


「いやぁ、そんな訳ないよね。だって君、すっごいピンピンしてるし」


「ほう、分かるか」


「魔力を探るのには少しだけ自信があるからねぇ。ボク、後方支援が主だからさ。直接戦闘に関わらない部分で貢献しようと思ってねぇ。……だから分かっちゃうんだよ。君の持つ魔力がぁ、全く減ってないってことがさ」



 バルザックきゅんは相変わらず無表情のままそう言ってくる。

 感情を悟らせないようにしているってことなんだろうけど、流石に状況が状況なせいか声が震えていた。


 まあ、仕方ないよね。

 こんな化け物みたいなのを前にして恐怖心だったりを完全に消すのは無理よ。



「行けると思ったんだけどねぇ。ボクの魔獣部隊でも無理ならぁ、もう諦めるしかないね」


「ふむ、今の其方ではこれが限界と言うわけか。なぁに、召喚される魔獣の質を上げれば更なる強化も見込めるだろう。鍛錬に励むのだな」


「ふふっ、攻め込んで来た敵に激励されるなんて、変な気分だなぁ。けど、君程の存在に将来性があるって太鼓判を押されるのは悪くない気分かもしれな――」


「ッ!! バルザック危ない!!」



 ふぁッ!?

 突然ドルフが盾を構えて飛び込んで来た!?

 一体何を……



――ドゴオオォォンッ



 ぬぁッ!?

 壁が吹き飛んだ!?


 そうか、これを察知してドルフは動いたのか。

 防壁スキルを使ってバルザックきゅんを守るために。


 ……あとついでに、俺も一緒に守ってもらった。

 よかったのかな。俺、一応は敵だよ?



「ドルフ? えぇ……? なにが起きたの……?」


「俺にも分からん。それよりも大丈夫かバルザック、怪我はないか。それに、君も」


「ほう? 敵だと言うのに庇うとはな。なんとも酔狂なものよ」


「例え敵だとしても、君は女の子なのだろう? なら守るのが俺の役目だ」


「……そうか。まあなんだ。庇う必要性があったかどうかはともかく、感謝はしておくとしよう」



 デレた。今デレたんじゃないか?

 メリアちゃん、今デレたよね?

 可愛いね。女の子として扱ってもらえて嬉しかったのかな。


 まあ何はともあれ、ドルフと彼の防壁スキルのおかげで崩壊した壁による被害が出ることはなかった。


 しかし……ううむ、あまりに突然のことすぎて何が何だかわからないな。

 どうやら壁を吹き飛ばした何者かがいるみたいだけど、目的は一体なんだろうか。

 侵入者であるオレとエルシーを狙うにしても、狙いが杜撰すぎてバルザックを巻き込んでいる。


 そもそもこんなことをできるような奴が今の王城にいるのか?

 あれから新しく兵士も来ないし、戦える奴はほとんどお偉いさんの護衛に向かっているんじゃ。


 ……いや、待てよ? 

 まだ動けるのが一人いる。

 

 

「おやおや、防がれてしまいましたか」


「……エニス!? これはどういうつもりだ!!」



 そうだ。

 名前以外、何もかも不明な存在。エニスだ。


 彼だけが今、完全にフリーとなっていた。

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