3章 王都襲撃 08
ルミナスはリリアやカインと比べると年齢が高めに見えた。
年長者としての責任みたいなものがあるのかもしれない。
だからこうして、自らを犠牲にしてでも他の皆を守ろうと言うんだろう。
その結果、マジで今この瞬間の絵面が終わり散らかしていた。
突如現れた鎧を纏った謎の存在は圧倒的な力で少女を屈服させ、仲間のためにその身を売らせようとしているのだ。
まさに悪逆非道!
下衆!
外道!
どうしよう。ここから盛り返すの無理でしょ。
「頭を上げよ。毛頭殺すつもりなどないわ。無論、其方もな」
「え……?」
ルミナスは心底驚いたって感じの表情を浮かべている。
そうもなるよね。これから一体どんな仕打ちを受けるのかって、彼女は思っていたわけだろうし。
それこそ奴隷みたいな扱い……もっと言えばR18なFANZA地方にいそうな奴隷として、死すら生ぬるい扱いすら覚悟していたんだろうし。
おそらく、この大陸はそう言う世界だ。
「利用されているだけ……と、言うほどでもないのかもしれんが、少なくとも王国に束縛されていることは事実であろう?」
「それをどこで……? ま、まさかっ!? あぁ、そんな……リリア、カイン……。彼女たちはもう……」
「待て待て、勘違いするでないわ。その二人は無事だ。他に一緒にいた者もな」
メリアちゃんがそう言った瞬間、一度は絶望の淵までいっただろうルミナスが再び戻って来た……ように見えた。そんな表情の変化があった。
「どうしてそのような……私たちは敵のはずです。生かしておく必要がありません。人質のつもりでしょうか……?」
「そうするのも悪くはないのかもしれん。だがそうしたところで、この国の重鎮共は其方らを切り捨てるだけであろうな」
「……でしょうね。私たちはあくまで便利な道具として使われているだけですから。でもそれなら、なおのこと私たちを生かしておく理由が分かりません。貴方は一体何者で、何を考えているのですか。大罪人になってまでこうして王城に忍び込んだその目的は、一体何なのですか……!」
ルミナスの表情や声色から、警戒が強まっていくのを感じる。
そうだよな。今のメリアちゃんの行動って、正直意味がわからんもんね。
国を落としに来たにしてはわざわざ強敵となり得る逸脱者の子孫と戦いに行くって言う謎行動をしてるし、かと言って既に会敵している逸脱者の子孫は殺さず生かしていると。
意☆味☆不☆明。
よく考えたらなんなんだコイツ、怖……。
「ここに来た目的は単純だ。国王、及びその裏にいる輩を残さず排除する。それだけよ」
「なっ……!? そんなことができると本気で思っているのですか……!?」
目に見えて驚くルミナス。
だよね、そう言う反応になるよね。
これから国王ぶっ殺して国家転覆させまーす!
って言っているわけだからね。
改めて考えても、まともじゃねえよこれ。
……本当にできるのか?
うわ今更だけど不安になってきた。
「ま、待ってください。百歩譲って目的がそうだとしても、私たちを生かしておく理由にはなりません……!」
「なに、簡単なことよ。これはオレ個人の趣味でな。其方らのような強者の可能性を持つ者と戦いたいのだ。そして同時に、其方らの未来に期待している。更なる力を手にし、オレを楽しませてくれるのではないか……とな」
流石はメリアちゃん。戦闘への探求心と好奇心はとどまることを知らない。
下手すりゃここに来た理由はもはやこっちがメインまである。
「……呆れました。まさか国王を討つだけではなく、そのようなことまで……ですが、だからこそなのでしょうね。でなければ国をひっくり返そうなどと、そんな荒唐無稽なことを考えはしません」
どうやらルミナスもメリアちゃんの異常性を幾分か理解したようだ。
まあ状況も状況だし、受け入れるしかないのかもしれないけど。
「そう言うことなのでな。オレは残りの逸脱者の子孫とも戦うつもりだ。くれぐれも止めはするなよ?」
「そうはさせません……と、言いたいところですが。残念ながら私では貴方を止めることはできませんので、お好きにどうぞ。殺すつもりがないのであれば……少なくとも今は敵対する必要もないでしょう」
そう言うとルミナスは立ち上がり、道を開けた。
この奥に残りの三人がいるってことなんだろう。
と、そう思っていたところ……どうやら向こうの方からやってきたようだ。
「何の騒ぎかと思えば、これはまた随分と派手にやったもんだな」
「だねぇ。ルミナスちゃんがこんなに本気を出さないといけない相手なんて、ボクには荷が重いよ」
奥からこちらへと歩いてくる二人の人影。
一人は大柄で筋肉質な青年。重厚な鎧を着こみ、大盾を背負っている。
紛れもなく、彼が防壁スキルの所持者であるドルフなんだろう。
で、もう一人。
ドルフとは打って変わって細身で小柄な少年だ。
……少年で、良いんだよな?
何と言うか、少年と言うには線が細い……と言うか、声以外はほぼ女の子だろこれ。
ああでも、よく見ると肘とか膝周りとかの関節が男のそれだ。
のどぼとけだってある。
いかんな。あまりにも可愛い男の娘すぎる。
抱きたい。
と、そんな彼だが、武器と呼べるものは持っていないように見える。
さて。残っている選択肢はエニスかバルザックだけど、どっちだこれ……?
駄目だ、マジで分からん。
バルザックは召喚系のはずだから、武器も防具も持っていなくてもおかしくはないしな……。
と言うか、名前以外不明なエニスってのがそもそも厄介なんだよ!
ええい、騎士隊め!
せめてもう少し有用な情報を持っていろよ……!
「おお、アンタがルミナスにここまでやらせたのか。ってこたぁ、相当な手練れなんだろう?」
「フハハッ、当然だ。彼女は良い術師だったぞ。威力も射程も、まだまだ伸びしろがある」
「はっはっは! そうだろうそうだろう。彼女は凄いんだ。俺たちの治療だけでも十分すぎる活躍なのに、更に努力して攻撃魔法まで身に着けたんだからな」
「いえ、そんな……私は自分のやるべきことをやっていただけですから……」
ルミナスの言葉に見え隠れする謙遜。
……否、これは照れか?
素振りやしぐさが好きな人に褒められた乙女のそれだ。
それを前提に見てみれば、わずかに彼女の頬が赤いような……。
同時にドルフもやたらと彼女のことを褒めちぎると言うか、完全に彼女自慢をする彼氏のそれだろ。
まさか二人はそう言う関係なのか?
ははっ、リア充だなぁ。そうに決まってる。
まあそうか。多感な年ごろの少年少女が同じ屋根の下、生活を共にしているんだからな。
ましてや魔獣と戦ったり他所の国と戦争をしたりするサツバツとした日常だ。
吊り橋効果も凄まじいだろう。
だから、そう言う目で見てないはずがないのだよ!
それこそリリアとカインもそうだったように!
それでセックスはしたのかしら?
そこが気になるわ、あなた。
いやいや、夫人。してるに決まってるでしょ!!
「はいはい、人前でイチャイチャするのはそこまでねぇ。今はそんなことしている場合じゃないでしょ」
「イッ!? イチャイチャだなんてそんな……!」
「そ、そうだぞバルザック! 俺と彼女は決してそう言う関係では……!」
あっ。
彼、バルザックだそうです。
ぼろを出しましたね。敵前ですよ。
「へー、あの人バルザックの方だったんだ」
「そのようだな。敵前だと言うのに、阿呆め。これだから恋愛などと言うものは……いや、オレが言えたことでもないか」
呆れと自嘲が混じったような声で、メリアちゃんはそう言った。
あぁ……うん、あれか。あれのことだな。
メリアちゃんが唯一対等な存在だと認めた一人の魔術師。
そんな彼とのイチャラブエピソードが続編の過去回想で語られていたっけ。
当時はもう血涙ものでしたね。
俺のメリアちゃんに何してんだって人が大量発生したもんですよ。
え……?
今は違うのかって?
そりゃあね、もちろん違いますよ。
だって……推しが幸せなら、OKです!
その精神で、俺たちはメリアちゃんの幸せを願うべきなのよ。
何故なら俺たちはメリアちゃんが大好きだから。
彼女が幸せでいることが、何より俺たちの幸せなのだ……!!
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