2章 隠しダンジョンと魔群大陸 09
時は少し遡り、メリアとアルベルトが戦っている最中のこと。
メリア以外の皆もまた、戦闘を行っていた。
「キーハッハッハァ!! どうしたどうした! 騎士隊ってのはその程度かァ!?」
「ぐああぁぁっ!! な、なんなんだコイツは……!?」
エリの放った魔法により、一人の騎士が吹き飛ぶ。
アルベルトほどでないにしろ、彼もまた王都の最高戦力である騎士隊の一人だ。
本来であればそう簡単にやられるはずはないのだが……現実は非常である。
エリの圧倒的な魔法を前に、手も足も出せずにいた。
そんな彼に対してエリは容赦のない攻撃を続ける。
「キヒヒッ、どんどんギア上げていくぜェ? んじゃ次は……キヒッ、燃え尽きなァ……! アタシのフレイムアローでよォ!!」
彼女が放ったのは炎魔法であるフレイムアロー。
その名の通り、超高温の炎を矢のようにして対象へと放つ魔法である。
「フレイムアローだと!? いやしかし、その魔法はそれほどの威力を持ってはいないはず……!」
「あぁん? おいおい、アタシはAランクのハンターだぜェ? 魔法の威力だってピカイチってなわけよォ!!」
「それにしたって……限度があるだろうがぁぁ!!」
騎士はそう叫びながらも全力で身を投げ出し、エリの放った魔法をギリギリのところで避けた。
彼の着ている鎧が少し溶けていることからも分かるように、直撃していれば命はなかっただろう。
もっとも、エリがフレイムアローの名を口にした瞬間に回避をしていればここまでギリギリにはなっていなかったのだが。
ではどうしてそのようなことになってしまったのか?
それは彼自身が言っていたように、フレイムアローとは本来これほどの威力を持つ魔法ではないからである。
否、彼だけではない。
王国中……いや、魔群大陸全土のほぼ全員が同じように考えていることだろう。
なぜならフレイムアローは低級魔法。
本来この魔法はそこそこの危険度の魔獣に対して牽制として使用する魔法であり、お世辞にも魔法としての質が高いとは言えないのである。
それこそ高危険度の魔獣を相手にするはずのAランクの魔法系ハンターがメインの攻撃として使うなどもってのほかだった。
これはかつて逸脱者によってこの大陸へと伝えられた情報とも一致しており、その間に魔法としての質が上がったというわけでもない。
フレイムアローは昔から今に至るまで、常に質の低い魔法であり続けていた。
……とは言え、先程彼女が放ったフレイムアローがあり得ざる火力を誇っていたのは事実。
希少な素材を使い、特殊な製法を用いて作られている騎士隊の鎧をも溶かすのだ。
その威力は疑いようもないだろう。
となると、一つの疑問が浮かんでくるのではないだろうか?
どうしてエリの魔法はそれほどまでに高威力となっているのか……と。
それには彼女の持つ特殊な能力……「ユニークスキル」と呼ばれるものが関わっていた。
ユニークスキルとは簡単に言えば適性を補強する特殊な能力である。
その内容は様々で、戦闘に特化したものからサポートに特化した物まで千差万別となっている。
そんなユニークスキルをAランクのハンターの多くが所有しているのだ。
中でもエリの持つユニークスキルは特に強力と言わざるを得ないだろう。
その名は「弾幕」。魔法を放つ際の魔力消費量を減らし、威力・射程・範囲を大幅に増大させると言うものである。
そんなものを持っている彼女が魔法を放つとどうなるのか。
先程見てもらったため分かると思うが、例えそれが低級の魔法であったとしても、そこに地獄が生み出されることとなる。
魔法を使わせれば決して横に並ぶものはいない。
それがエリと言うハンターなのだ。
「キヒッ……!! まだまだ行くからよォ……死ぬまで死ぬんじゃねえぜェ!!」
「ひぃっ!? あ、悪魔だ……! こんなの……こんなのおかしい……! 頼む、誰か……誰か助けてくれ……!!」
……どうやら彼は完全に戦意を失ってしまったようだ。
その場に崩れ落ち、懇願し、そしてひたすら祈るばかりであった。
騎士の命であるはずの剣すらも自ら手放してしまっている。
それだけ、エリが規格外だと言うことなのだろう。
彼女と言う怪物を前にした彼にはもはや、王国の最高戦力たる騎士隊としてのプライドなんてものはなかった。
当然、こんな無防備な状態ではエリの魔法を真正面から受けることに……はならず、どういう訳か彼はその意識を途絶えさせてしまう。
「駄目ですよ、エリちゃん。生かしたまま王都や国王に関する情報を聞き出さないといけませんからね」
「はぅっ!?」
いつの間にやらエリの背後に立っていたユイが彼女の肩をポンと叩いた。
すると、これまでと同じようにエリは落ち着きを取り戻していく。
……或いは、恐怖しているのかもしれない。
見ればユイはもう片方の手に針のようなものを握っている。
それは見る人が見れば暗器の類であるとわかるだろう。
そう、騎士を気絶させたのは彼女である。
隠密系のハンターとして、彼女はそう言った行為に長けているのだ。
そんなユイを怒らせればどうなるか。
それは長いこと彼女と共にいるエリが誰よりも理解していた。
だからこそ恐怖を抱くのだ。
ユイの恐ろしさを知っている者として……誰よりも強く。
「キ、キヒヒ……そう、だったね……。ごめんなさい……」
「まったく、あまり熱くなってはいけませんよ~? でも、戦意を失わせたのはお手柄かもしれませんね。お話も……たくさん聞かせてくれるかもしれませんから♥」
「ヒッ……」
エリの口から乾いた呼吸音が漏れ出る。
彼女が言った「お話」という単語に反応したのだろう。
暗器の扱いに長けた隠密系のAランクハンター。
そんな彼女が敵の重要人物に対して「お話」をするのだ。
誰がどう考えても、そう言う意味であることは明白。
さぞ恐ろしいことが行われる……と、彼女が思ったとしても仕方のないことであった。
そうして震えているユイの元へと向かう足音が二つ。
「やっほー、こっちは終わったよー」
「こちらもニーニャさんのお仲間さんたちの治療が終わりました。えっと、お怪我とかは……まあ、ありませんよね」
どうやらエルシーとアイリの両名もそれぞれ役目を終えたようだ。
エリとユイの二人の元へパタパタと駆け寄っていく。
「見ての通り、五体大満足ですので問題はありませんよ~」
「キヒ……アタシも怪我はしてない……」
「僕も大丈夫。あの程度ならちょちょいのちょいだからね。騎士の人も、ちゃーんと麻痺魔法で痺れさせて縛っておいたから安心して」
「うふふ、流石ですエルシーさん」
ユイはエルシーの頭を優しく撫でた。
「な、なんだか恥ずかしいね……これ」
頬を染め、視線を逸らしながらそう口にするエルシー。
しかし、どこかまんざらでもなさそうだ。
「あっ……もうやめちゃうの……」
「うふふ、また今度たっぷりしてあげますから。それよりも、メリアさんの方も加勢の必要はなさそうですし……私たちはやるべきことをやりましょうか♥」
「ヒッ……」
ユイのわずかな声色の変化。
それを聞き逃さなかったエリは再び掠れた声を漏らした。
この後、とても酷いことが行われる。
その事実を理解してしまったのだろう。
対して何も知らないアイリとエルシーの二人は、このあと起こる惨状を受け入れることができるのだろうか……。
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