わたしが大切にしてるもの
春山 隼也
第1話 プロローグ
始業式。
それは学校生活の始まり。
「自己紹介カードを書いてください」
一日の終わり。オリエンテーションもひと段落ついて、定番の自己紹介カード。
先ほど委員長に決まった
各列へカードを配る。
俺はこの自己紹介カードみたいな、自分を表現するようなものが苦手だ。
好きなもの、事、座右の銘、夢、などなど。
いつも当たり障りのないものを書いている。
ただ、これだけは無理だ。
「夢なんてないんだが……」
子供、と言えば子供なのだろうが、もう簡単に夢を持てる歳でもない。
夢ねぇ。
周囲の人はみな書き終えて提出しに行く。
ダメだ。このまんま出そう。
―――
翌日、それは壁に丁寧に並んでいた。
「はぁ」
俺だけ書いてないと、目立つもんだな。
―――
昼休み
全く、どうして夢とか書かなきゃいけないんだ。
「丸山くん」
え、誰? 声のしたほうを振り返る。
「あ、遠藤さん。どうしてここに?」
「ちょっと聞きたいことがあってさ」
「何? 聞きたいことって」
彼女は「あのさ――」と言いながら身を乗り出す。
「丸山くんって、夢、無いの?」
ゆめ? え、あ、自己紹介カードを見たのか。
「無い、というか分からない」
「分からない?」
遠藤さんは首をかしげる。
「でも、丸山くん好きなことは書いてたよね」
「まぁ、書いたけど」
「じゃあ、ゲームが好きなら、プロゲーマーとかでいいんじゃない?」
「俺、そこまで強くないし。それに現実的じゃない」
「丸山くん!」
なんか、遠藤さん怒ってる?
「みんなの自己紹介カード、見た?」
「いや、見てないけど」
「みんな色々書いてたよ? それこそプロゲーマーとか――」
遠藤さんはひとしきり夢の例を挙げた後、こういった。
「つまりね。別に現実的かどうかなんて、関係無いってこと。なりたければそれだけで夢なんだから」
「そう、なんだ。俺はそうやって夢を見られないから、思いつかないんだろうね」
「そっか」
彼女は少し寂しそうな顔をした。
「あのさ、別に夢じゃなくてもいいから、大事にしてること。探してみたら?」
「大事にしてること」
「そう。そしたらきっと、こんなことしたいとか、こういう風になりたいとか、思えるかもしれないし」
大事なこと、ねぇ。なんだろ俺の大事なこと。
無意識に視線が空に向く。
「ちょっと、聞いてるの?」
「あ、あぁうん」
「じゃあ、考えといてね。また聞くから」
―――
そんな昼休みの一瞬の出来事から、俺の学校生活が始まったのだ。
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