12.だから好きになれる
次の日。学校に着くなりすぐに職員室まで行く。
「柚先生!連れてってください!」
柚先生はそれだけで何をしてほしいのかを理解し、頷く。
「……わかりました。今すぐに行きますよ」
「おねがいします」
柚先生が走り出す。ぼくは玄関まで行くのはめんどいし時間もかかると判断して、ショートカットのために柚先生の手を掴んで窓から飛び出した。先生が間の抜けた声を上げる。
「へ?」
「ぼくの能力はジャンプなので落下速度を少し制御できるから安全です」
この地球には、「能力」というものがあり、その「能力」を持った人は、見分けがつくように髪色を、黒と茶色以外の色に染める。
「能力」は魔法とは少し違って、鍛えれば誰でも出来ることだけれど、得にずば抜けて、生まれつき優れている……例えば、ジャンプだったら。ジャンプなんて誰でもできるし、鍛えれば高く跳べるよね。でも、ジャンプが「能力」だった場合は、跳ぶ高さに自由がきく。どれだけ高くも跳べるし、空中アクロバットもお手のもの。
また、「能力」は生まれつきのものだから、「能力」を持たずに生まれる人もいる。
まあでも、どんな能力にも、自分を極度の負担から守るために反作用というものが起こることになるから、極力使わないんだけどね。
このジャンプの「能力」を持っているのがぼく、朝倉仁だ。ほかにもこの能力を持っている人はいるかもしれないけど。地面に足がついた瞬間また走り出す。
「早く車に乗れ」
柚先生が自分の車に乗り込む。ぼくが車に乗り込んだのを確認して、先生が車を発進させる。少し走って、急に車を止めた。
「ここだ。今日、冥沙には学校休むように言っているから中にいるはずだ。どうせお前はそう長くは耐えられないだろうと思ったしな」
そういって玄関を素早く開けてすぐ閉める。何故か?途中から気づいたことなんだけど、父さんたちに尾行されちゃってたから。多分ぼくの体のどこかについている盗聴器で音を拾って何をしようとしているか分かったんだと思う。
「母さんおかえ……おま、仁!?その……大丈夫、だったか?心配してたんだぜ!この怪我は!?それに……!」
一気にまくしたてる冥沙に、柚先生が名前を呼ぶ。
「冥沙」
冥沙は幾らか落ち着いて、軽くため息をついた。
「とりあえず……仁が帰ってこれてよかった。2階、行きなよ。今、陽眼と牧と瑠璃さんいるから」
その言葉を聞いて、居ても立ってもいられず、走って2階へ向かう。
「瑠璃さん!牧!」
扉を開けると、目の前に、驚いた顔の瑠璃さんと牧たちが見えた。ぼくは瑠璃さんの胸の中に飛び込む。
「「仁くん!」」
ぼくの目から涙が溢れる。2人も、すごく嬉しそうな表情を浮かべる。
「会いたかったよぉ……」
「ごめんね仁くん」
「また会えて良かった……」
それを見て陽眼もホッとした顔を見せる。陽眼もたくさん心配してくれてたんだろうな……。
「仁……ほんと、ほんとよかった……」
と、そのときドアーチャイムが鳴った。反射的にキュッと瑠璃さんに、新しい父さんにしがみつく。……もしかしたら。そんな思いが頭をよぎる。
「大丈夫だよ」
父さんがキュッと抱きしめてくれる。
「どちら様?」
柚先生がお相手をしている声が聞こえる。
「朝倉孝です」
……予想は、当たった。低い、あの嫌な声。その声をきいて目をギュッと瞑る。その声が発したのはたったの六文字。
「仁を、返せ」
……ぼくの背中が、異常に冷えた。
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