4.父さんは悪い人
次の日。また、昨日と同じ会話が繰り返される。
「仁くん、本当のことを言ってください」
ぼくと向かい合わせに父さんがいて、ぼくのまわりに陽眼と牧、冥沙、そして理事長がいる。
「昨日の、絶対嘘ですよね?」
「だから、迷惑かけちゃうからって……!」
「嘘ですよね?」
「嘘じゃ無いんです、本当に……!」
そう、嘘ではない。それだけは確かだ。それ以上の問題があるだけで。
「私たちは仁くんの味方です。本当のことを言ってください。そして、もしお父さんが何かしていても最終的にどうするかは仁くんの自由なので。……やっぱり信じられませんか?仕方がありません。出会って二日目ですからね。仁くんの味方だなんて言われても信用なんて……」
「……とうさんが」
理事長がピクリと反応する。
「……怖い。本当に、それだけ。怒られたくなかった、絶対に……。怒るとものすごく怖いから……痛い、から……」
理事長のさっきぼくに質問してたときの目がスゥッとほそく、さらに冷たくなった。
「ありがとう、仁くん。さ、お父さん。『痛い』という言葉を聞いて、貴方はどう思いましたか?」
「証拠は?」
思わずビクッとする。理事長が言った。
「子供にそう言うことを言うのは……。それにこんなに怯えてて……」
「演技じゃ無いのか?」
「ある……」
みんながおどろいてこちらを見る。ぼくは上着を脱いでみせた。みんながギョッとする。半袖の、袖がないところから、両腕に生々しい傷が覗いたから。
「それ数日……前に転んで怪我したやつだろ?」
「お父さん!」
「いいです。半袖なら、こういうところも怪我……します。だから……」
半袖をぬぐ。そうすれば、わかると思う。肩や背中にも大きな傷が走る。
「お父さん、これは転んでできる怪我じゃありません。それにこんなに大きな……!」
「……あー、はいはい。私が悪かったんですね。もう行きますね。仁、お前も自分の立場をわきまえろよ。調子乗ってんじゃねぇ、クソが。空にいる母さんはお前のことを見てどう思っていると思う?どうせ、クソだとか意気地なしとか言ってるだろーがよ」
父さんは冷たく言い放って理事長室から出ていこうとする。
「……さんは」
「あ゛?」
「母さんは……そんなこと、いわない……!」
「声が震えてんぞ。自信ねーからだろ?」
「ある……!」
「なら大きな声で言ってみろよ」
「母さんは!そんなこと言わない……!う…うぅ…うぁ…!うえぇ…」
「ざけんじゃねぇクソが。泣くな。次泣いたらただじゃおかねぇ。そこでどうせ母さん、とか言って泣くんだろ。あのなぁ、お前みたいなやつって目障りなんだよ。家にいたらいたで何もやんねーし外に出かけたら出かけたで一日帰ってこなかったこともあっただろーがよ!何様のつもりだ?お前は。そろそろ気付けよ。役立たず!だからいじめられるんだよ!お前なんぞは人間の恥だ。この言葉がどういうことかよく考えておくんだな。どうなっても責任取らねーかんな」
そう冷たく突き放され、乱暴に出ていってしまった。父さんに追いてかれて、ぼくはその場に崩れてぺたんと座りこんでしまった。
「よかったのー!仁!」
「な?あたしたちがいて正かいだっただろ?」
こくりとうなずく。でも、やっぱり耐えきれなかった。嗚咽がもれる。
「うぅ……ひぐっ……」
「こっちおいで」
陽眼が両手を広げる。全然関わりのない人だ。飛び込むなんてできやしない。でも、陽眼は黙って頭を撫でてくれた。陽眼の手はあったかかった。お母さんとおんなじぐらい。
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