5.新しい家族
ひとしきり泣いて、目をこする。
「……あ!裕翔と東は……」
「裕翔は泣いちゃってのー。すごく泣き虫なんじゃな、彼」
「東がなぐさめてたから、もうすこしで来るだろ」
ぼくはほっとして、思ったことを口に出した。
「ぼく……どうしよう」
父さんはもう帰っちゃった。ぼくは、家までの帰り道が分からない。だって……車で来たから。すると、理事長が言った。
「仁くんの家の場所なら分かるけど……仁くんは、あの、お父さんのいる家に帰りたい?帰りたくなければ私の家に連れてってあげるよ」
「かえりたい。家……帰りたい……」
「……なんで?だって、殴られたり蹴られたりするんだよ?」
「え?当たり前でしょ?」
「当たり前じゃ無いよ……?」
「……え?みんなは、怒られる時、殴られたりしないの……?」
「うん。しないよ」
「何で……?悪いことしたら体で覚えさせなきゃいけないんじゃ無いの?おとうさん、怒ると怖いけど大好きだよ……」
「……仁くん。君の父さんがやってることは犯罪なんだよ。わかる?」
自分の常識と違いすぎて頭がこんがらがる。
「え……っと、ぼく、小さい頃から殴られてたりしてたんですけど、それって……」
「おかしいことだよ」
「……でも、悪いことしたら体で覚えさせないと……」
自分の常識が通用しない。それは、はっきり言って怖かった。
「やっちゃいけないんだよ、それ」
「……人を殴ることの、何がいけないの……?」
「痛いでしょ?」
「痛いからやられないようにって、次から直せるんでしょ?」
「……じゃあ、仁くんはあれでいいの?」
「痛いからやだ……けど……でも……」
理事長はよく分からないという顔をしながら言った。
「仁くん。さっきも言ったことだけど……。親が子供に暴力を振るっていうのは虐待っていう犯罪にあたるんだ」
「……じゃあ、今まで正しいと思ってたのは、全部……」
「間違ってるよ」
……ぼくの頭がリセットされた。……もう、ぼくの常識は通用しない。全く新しい世界だ。……父さんのこと、頭の片隅では好きだけれど、今までの尊敬が全て憎悪に変わった。
そっか、父さん、悪い人だったんだ。そっか。
「……なら、試しに理事長の家で暮らしてもいいですか」
すると、牧がにっこりと笑って言った。
「なら、今日から仁くんの家はここだね!」
「え?」
「いや、ここが家だから……。あと、家族になったから、こっちもタメ口にするね」
「うん。これから、よろしくね」
牧と握手をしたところに、裕翔と東が来た。
「裕翔!東!」
「仁、大丈夫だった!?」
「裕翔が仁のことめちゃくちゃ心ぱいしてたぜ」
「ごめんね、裕翔。ありがとう。ぼくは大丈夫だよ」
「よかったあ……」
そう言って裕翔は泣き出してしまった。
「あ、そうだ、何か用意して欲しいものがあったら言ってね」
「じゃあ……母さん一ヶ月に一回会いに行きたいからその手伝いをしてほしい」
「もちろん!できることは何でもさせて!」
「……ありがとう」
牧は、この時、密かに思っていた。これでも笑ってくれないのか、と。
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