第2話 最後のページ
ある日、図書館で働いているフォロワーさんから、信じられない話を聞いたんです。
そのフォロワーさんの知り合い…。
名前は井口さんとしておきます。
神奈川の住宅街にある、ちょっと古めの図書館で司書をしていて、もう5年になるそうです。
12月のある平日の夜。
閉館時間は過ぎたけど、残って一人で残業してたらしいんですね。
最近の人はあまり借りに来たりすることも少ないんですけど、地元の人でまとめて借りていかれる方ってやっぱり今でもいらっしゃるんです。
その日も閉館直前に大量の返却があったり、あとは前々から気になっていた破れや汚れがひどくて貸し出せない書籍の整理なんかもしてしまおうと思ったんだと言ってました。
人がいない図書館というのは何とも不思議な空気感で、たまに異世界にでも迷い込んだような感覚がするんだといつも話していたそうです。
それに冬場は日が落ちるのも早くて、閉館時間が近付いてくると館内でも薄暗さを感じると言い、電気はついていても人が少なく静かな空間が心地よくて好きだった井口さん。
閉館作業を終えてから、のんびりと本の整理をしてた時…。
ふと、誰かの気配を感じたんだそうです。
遠くでカツ…カツ…カツ…って、ヒールのような音が静かな館内に響いてる。
でも、今は閉館して入口の扉は施錠済み。
「まさか…誰か帰っていない人がいたのか?」と思って慌てて足音のした方向へと向かったと言います。
急いで移動した先で周囲を見回してみたけど誰もいない。
あるのはいつもの古びた本棚と読書用の椅子やテーブル。
気のせいだったのか?と、不思議に思いながらも誰も見当たらないし、音もしなくなったので元の場所に戻って本の整理を続けることにしました。
痛んでいる本を段ボールに詰め終わった時…。
足元に見慣れない本が落ちていたそうです。
「あれ?こんな本あったか…?」と、手に取って見てみると古い装丁で結構重さがあった。
分厚い茶色の皮でできた表紙にはタイトルもなくて、蔵書検索にも出てこない。
登録されているタイトルのヒントはないかと、ぱらぱらページをめくって中身に目を通してみる。
いろんな言語と書体で二、三行ほど何かの文章が書かれていて所々数字らしいものも見えたと言います。
ほとんど読むこともできず、書かれている内容も意味がわからない。
いろんな言語が1ページの中に混じっている。
こんな本は見たことがなかった。
意味が本当にわからないと思いながら最後のページ開いた。
その時――
ある文章に目が留まった。
そこには、こう書かれてたらしいです。
「井口俊介 2022年12月〇日 19時46分」
つけていた腕時計を見ると時刻は、19時44分だった。
その瞬間…心臓がドクンと音を立てて、視界がグラッと揺れ――
気がついたら作業していた倉庫室ではなく、少し離れた閲覧室の真ん中に立っていたと言います。
本はいつに間にか手から消えていて、落としてしまったのかと足元や周りへ視線を動かす…と、そこに誰かがいた。
体のラインや、古めかしい灰色のプリーツスカートを履いているところを見ると、恐らく黒髪の女性らしいとは分かったのですが…。
そんなことよりも恐ろしさの方が勝っていました。
顔が…ないんです。
のっぺりとした皮膚がただそこにあるだけで、目も鼻も口もない。
なんだか体の角度もいびつだったと言います。
腕が外側に向かって曲がっており、肩も左右で高さが違っていました。
ソレは上下にガクガクと体を揺すりながら、ゆっくりこちらに向かって歩いてきていて……一歩進んでくるたびにコツ……コツ……と、音がしていました。
その音は先ほど聞いた足音で、近づいてくるたびに段々と強烈な頭痛と吐き気が込み上げてきた。
もう立っていられなくなっていました。
井口さんが思わず膝をついて前かがみになってしまうと、あと数歩のところまでソレが近付いた時…何か足音とは別の音が聞こえたらしいです。
その音を聞いた瞬間プツンと意識を失ったと言っていました。
気が付けば、なぜか自宅の布団の中。
さっきまで図書館にいたという記憶も実感もあるのに、自分が何時に帰ってきたのか全く覚えていない。
それに何か記憶がごっそりなくなっているような感覚があったと言います。
次の日、体調はあまり良くなかったけど仕事に向かったという井口さん。
出勤して自分のロッカーを開けると、あの本が入っていたと言います。
この本があるという事は昨日の途中までの記憶は実際にあった事なんだと思い、恐る恐る本に手を伸ばしました。
井口さんの頭の中に残っていた、あの一文が書かれていた最後のページを見ると――
見たことのない文字が書かれていました。
ただ、数字はそのまま1946と残っていたと言います。
そして…昨日にはなかった2行が追加されていたらしいです。
そのことを同僚に話そうとロッカーに例の本を置いていたらしいのですが、休憩時間に取りに行くとなくなっていたと。
この話を教えてくれたフォロワーさんは、作り話かもしれませんが、もし本当にそんな本があったとしたら怖くないですか?と笑ってました。
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