第15話 定例会 カレー 収集班編制
宗次郎はレベルアップで、三階層での素材集めを単独で行えるようになり、狩人から手に入れた猪肉を栄養バランスよく配合した大麦カレーの試食を計画した。
さらに四階層では香辛料やほかの素材、五階層では果実を効率的に採取し、ボスであるゴーレムも簡単に撃破。
大量の素材を手に入れた宗次郎は、その日のうちに領地の健康維持と食材確保に向けた新たな収集部隊の編制に取り掛かった。
★ 収穫祭用と町おこしのためのレシピづくり
宗次郎は町の肉屋に足を運ぶと、解体前の牛、兎、猪、鶏が入った収納袋を手渡した。肉屋の親父は目を丸くして言った。
「おお、宗次郎殿…解体には数日かかるが、必要な部位なら、10人前なら特急で捌いて明日の朝、渡そう」
「では、それで頼むよ」
館に戻ると、それぞれに声をかけていく。
厨房長に大麦カレーのレシピを渡し、香辛料の加工手順書や分量配合表を渡す。
「ぶどうとリンゴは適量を分け、ドライフルーツ用と食後のデザート用を作るように」
さらに、収穫祭向けの1800人分の材料(肉と野菜を除く)を収納袋にまとめ、町中の調理人たちを集めるよう指示する。規格レシピを共有した者だけが店で『エルダールカレー』として販売可能。アレンジを加えた場合は“アレンジカレー”として扱うよう、商業ギルドにも登録された。
完成品を造形魔法で作ったが、香りがないため見た目は今ひとつ。宗次郎は思わず苦笑いした。
鍛冶屋のバルドルには、収穫祭用の金属加工品を注文する。
建設中の製鉄所に隣接する職員用厨房(仮称:給食セントラルキッチン)でも使える規格だ。
- 大型鍋(90L容量の特注サイズ、鉄製厚手)
- 鍋蓋(重量感のある鉄製)
- お玉・レードル(長柄、極薄鉄製)
- ヘラ・フライ返し(耐熱仕様)
- 耐熱ベラ(柄は木製も可)
- トング(大型)
- 大型ボウル・ざる
- 計量カップ・スケール
「これらは45日後の納期でよい」と伝え、発注書を渡した。
大工ギルドのレンには、竈五基、食堂用シンク、作業台、大型まな板、収納棚、木製盆・トレーを依頼。木工ギルドにはスプーン、平皿、カップ2000セット。完成予定のサンプルは、造形魔法で提供した。便利な魔法で、視覚的な確認ができる。
彼らには詳細に打ち合わせ、使用目的と用途、そして規格について同一商品・同一品質で作る技術を学んでもらった。
この概念がのちのエルダールブランドを飛躍的に展開させた。
★ 素材収集班の選抜
商会の定例会で開かれた。議題は『収集部隊の編制』だ。
「グリムヴァルダンジョン三階層を超えてだろう?」
「かなり人選が絞られるよな、いっそ三階層でレベル上げチームと2つに分けてもいいかもしれない」
皆から、意見が出た。意外とレベル30という者が、そうそういるわけではないことを知った。
「領主にも頼んで、兵士を数人同行させるか?」
「だよな、そろそろ製鉄所も大型施設も出来上がるから、そっちで人手が取られるぞ」
「大麦農家は晩夏には収穫が終わっている。彼らにも声をかけるか」
「そっちは、蒸留酒の作業に人手が欲しいのだが」
「狩人と兵士を、チームリーダーにして、数人をつけるのはどうだ?狩人も11人全員復帰しているだろう?」
「おお、彼らがいたな、護衛を頼んでもいいかもしれない。頼めれば、四階層チームはレベル上げは最低限でいい」
ルーナが口を開いた。
「ねえ、募集もいいけれど、新商品のカレー?、あれを試食会にして提供すれば、やる気が出て人が集まると思うんだけれど」
「ほう、うまいのか?」
「まだ誰も食べていない、食品サンプルをみたけれど、茶色いスープに肉と野菜を入れた料理みたい」
まあ、においまで想像できないからな。見た目では、うまいということに説得力がない。
「じゃあ、試食会をするなら、厨房でつくるとしても皿とスプーンは、50セットほどいるか?」
「わかった、それなら、同一規格から外れた、弟子の作ったやつで対応できるぞ」
木工ギルドのガーロックが、売り物にはなりにくい練習品でよいなら、と声を上げてくれた。
そういえば、伝え忘れていたが、役員会は6人だが、定例会は町のすべてのギルドの長が参加している。
それこそ、町ぐるみの話し合いだ。
ガルドが言う。
「俺はこの前酒場で、大麦カレー肉マシマシってのを食ったのだが、これは酒に合う。激辛にしてもらうと冷えたエールに合う。それこそ、無限ループだった」
「おい、ガルド、俺がいるときに食え、俺はまだ食べていない」
「なら、試食会の前に、酒場にいくか?」
「おう、どうせなら、大麦カレー?エルダールカレーじゃないのか?食いながら定例会をしようぜ」
「規格品ではないアレンジを加えたやつは、エルダールカレーを名乗れないのだ。がっはっは」
「名前より、大事なのは味だ」
「いや、ブランド名エルダールは大事だろう、そのための定例会だぞ」
各ギルド長が、自由に話しているが、だんだんと方向性がまとまってきた。
「では、場所を移すのも人数が多いので、酒場から出前を頼みましょう」
「おう、それがいい、エールも頼むぜ」
「会議中は、お酒はだめです」
事務管理部門の担当官が説明する。
「ここで食って会議が終わったら、酒場に行け」
「そうするか」
★ エルダールカレーとアレンジカレー
「だんぜん、規格品のエルダールカレーだな、肉が三種盛り、あれは最高だった」
「確かにうまい。だが辛さが選べないのが・・・」
「そのために店ごとに辛さや肉の種類、野菜抜きとか選べるアレンジがあるんだろうが」
「まあな」
会議中に試食した、面々はエルダールカレーの虜になったようだ。
「宗次郎、これはお前の国の国民食なのか?」
「国民食?国のソウルフードのひとつではあるな」
「ソウルフードか、どれくらいあるんだ?」
「…無限だな」
「無限だと…」
「詳しく聞かせろ、いや食わせろ」
「ははは、職員用の食堂でつくれるか、厨房長に相談しておく」
「バルドルの作る調理器具が無限に増えるがな」
「弟子を増やすか」
最終的に、エルダールカレーは規格化、アレンジカレーは店ごとの特色を生かして自由に作らせることに決定。香辛料は同一規格で混合し、レシピは秘匿、カレー用香辛料は販売用として登録されることとなった。
また、採取班は、兵士チームと狩人チームとし、兵士チームは領主館代表として参加した代官に丸投げした。
狩人チームは、農業ギルドが募集をすることとなった。
参加者には、魔法適性を調べ、敵性があれば収納リング、なければ魔法袋が貸与される。
領主家と商会が初めて合同で企画した、歴史的な収集部隊の創立であった。
「あとは、料理人を増やしたいな」
「そうだよな、各ギルドに所属する料理番にも教えてやってほしい」
「家庭料理でもカレーはつくれるのか?」
「大人数向きではあるけれど、まとまって食べるのには向いている」
「では、料理部隊も作りましょう」
「賛成だ」
こうして、収穫祭を彩るカレー作りと収集班編制の準備が、本格的に始まったのである。
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