第14話 グリムヴァルダンジョン 制覇
宗次郎は三~五階層で食材や香辛料を確保し、領民の栄養改善や義手・義足の製作に役立てる計画を練った。
商会では最高経営層会議を開き、各事業の優先順位や物流・製造体制を整理。収納魔法リングを活用し、領地全体の健康と生産性向上を目指す組織を整えた。
さらに商業ギルドとの交渉で投資を呼び、黒炎石燃料や蒸留酒の供給体制を確立。事業基盤と収益確保の両立を実現していく。
【鑑定結果】
名称:鈴木宗次郎
年齢:41
レベル:434(34+400)※NEW
魔力残量 567/1,000(有限)
~中略~
【互換性鑑定⑦】立体互換性認知※NEW
【心身最適化⑦】立体造形創造※NEW
特記事項:レベルとスキルレベルは原則連動せず、効果は絶大。取扱注意。
このご都合主義的なレベルアップとスキルに、思わず呆れる宗次郎。
理不尽さを感じたため、狩人のために肉体の巻き戻しは行わなかった。
――俺のスキル「心身最適化」には、「期限付きの巻き戻し」という属性がある。その力で、彼らの失った手足を再生させることは容易い。だが、もしその「期限」が、一ヶ月後、一年後、突然切れたらどうなる?
誰かの希望を、絶望の淵へと突き落とす権利は、俺にはない。
宗次郎は、頭を横に振り、現実に意識を戻した。
それから数日後、まさか自分が立体造形系のスキルを手に入れることになるとは。
「立体造形創造」があれば、義手の模型もイメージ通りに作れる。
まるで3Dプリンタのように、立体見本と設計図が同時に手に入るのだ。
効果は絶大らしい。ダンジョンでその力を試すのが楽しみだ。
農業ギルドでスキルを使用したことで、宗次郎のレベルは一気に上昇。新たな派生スキルも生まれた。
本当はルーナにこそ習得してほしい魔法だったが、今なら一人で三階層を探索できそうだ。このことはルーナと女将にも知らせておくつもりだった。
「旦那様、お顔を見なかった二晩で、ずいぶん愉快に荒々しく垢抜けられましたわね」
寝起きの宗次郎に女将が胸元で囁く。宗次郎は脳内にステータスを表示させた。年齢は変わらないが、レベルとスキルレベルにNEWの表示があった。
天井を見上げながら、ステータスを確認する宗次郎。
「以前、スキルを使うとレベルが上がると聞いておりましたが……ただ呆れますね。ずいぶん体が絞り込まれていますわ」
女将は肩から胸元に視線を落とし、その変化を観察する。まるで何年も鍛錬を重ねた武人のようだ。
「これなら、三階層もひとりで行けそうだ。今日は素材集めに出かける」
宗次郎は少し高揚した声でつぶやく。以前にはなかった自信が混じっていた。
「私は例の金銀銅発見の報告で、領主館へ出かけます」
「ああ、面倒ごとだが頼んだ」
宗次郎は女将の腰に手を回し上体を起こす。急激なレベルアップによる体の異常を確認しながら、目の前の女将の動きを高解像度で理解する。
まるでパソコンのHDDがSSDに変わった時のような感覚だ。
「つまり434日で14歳年を取るということですね」
女将は冷静に計算する。
「加速度的老化ともいえる」
「定期的にスキルをかけ直せば?」
「カウンターがリセットされ、また老化が始まるということか」
宗次郎は自らの経験から推測した。
「旦那様のレベルが上がれば、それが緩やかになると」
女将は安心したように頷く。
「では出発前に、私にかけ直してくださいね」
宗次郎は派生スキルの存在が、新たな可能性を開いてくれることを実感していた。
「人それぞれの判断だよ。おそらくレティーナもルーナも効果は切れているが、精神的には若さを保っているはず」
「私が24歳の見た目にしては老けていると?」
「皮肉ではなく、熟成されている……かな。最適化された女将と自分は、精神年齢差をほぼ感じない」
宗次郎は彼女の内面の成熟度も評価していた。
「それは賞賛に値する、と受け取ります」
「それでいい」
★ ダンジョン攻略と素材
宗次郎はグリムヴァルダンジョンへ向かう。
ルーナと女将とで一・二階層は下見済みのため、三階層の入り口を目指した。
一階層では、炎蔓を集める農民の母子に声をかけ、工場ができたら製紙や便所紙、下着用布の素材の買取金額を伝えた。
二階層では、黒炎石を採取する農民に、白露石の在庫が少ないため買取に色付けしていることを話して別れた。
金銀銅が産出できる隠し部屋は一部の者しか知らず、領地では未開放。
銅製の蒸留器を作るにはまとまった銅が必要で、五階層でリンゴやブドウも採取できることから、シードルや葡萄酒用蒸留器も検討する。
結論として鍛冶屋バルドルに依頼することにした。
三階層に降り立つ。
目的は肉類――猪と鶏。兎も出るが、鶏の代替として栄養価が高い。牛も時折出現し、ミルをドロップするという。肉は希少だという。
このレベルで手こずることはないが、どう仕留めるかは未知数。以前鹿を相手にしたが、基本は遠距離攻撃だったため、猪や鶏は剣や斧で対峙したことがない。
ぶらついていると、右側からガサッと接近する気配。
宗次郎は右手を伸ばし、一角兎の首を捕まえた。
【鑑定結果】
対象:ホーンラビット
レベル:8
備考:雄は一角、雌は二角
その後は作業の連続。次々と襲い掛かるホーンラビットを手際よく収納袋に収める。
猪7頭、兎か鶏350羽。収穫祭用の肉量として計算した量だ。
試食用には猪一匹で充分と考えていたが、先日義手を与えた狩人たちと遭遇した。
「おーい!」
「おお、商会長殿!義手、最高です!」
宗次郎は猪の仕留め方を尋ねると、遠距離で矢を使う方法しか知らないと返答される。
「良ければ猪肉のドロップ品をお渡ししましょうか?」
「おお、助かる」
宗次郎は狩人から猪肉を受け取り、気づく。
「肉がドロップするのか?解体せずに?」
「はい、収納リング付きなので狩り放題です」
捕獲用収納袋から兎を取り出すと、三人組は驚きの声を上げた。
「これがダンジョンエラーですね。ドロップ前に触れた状態で倒すと丸ごと残る」
「どうやって仕留めたの?」
「ああ、とびかかる兎を手でつかみ、絞めて袋に入れた」
三人は呆れつつも笑った。
牛で試す案も出るが、素手で絞められるかは未知数。
「牛は兎より遅いので逃げませんが……」
「どうやって仕留めるのか想像できん」
三人は作戦とは言えない話し合いを始める。
「ちなみに牛を倒せたら解体は?」
「町の肉屋の主人ができますが、腰を抜かすでしょうね」
★ 大麦カレーの試食準備
宗次郎は牛一頭を捕獲・収納し、肉を鑑定する。栄養バランスを確認するためだ。
猪肉:40%(高栄養で健康維持と体力増進)
鶏肉・兎肉:40%(低脂肪で消化良、良質タンパク)
牛肉:20%(旨味と鉄分補給、エネルギー効率向上)
脂質抑制とタンパク質バランスを整え、美味しい配合を確認した宗次郎は、四階層の入り口を探す準備を整えた。
★ グリムヴァルダンジョン 四階層~五階層
四階層に足を踏み入れると、空気はやや乾き、微かな芳香が漂っていた。壁際には低木や蔓が群生し、実や種が鈍い光を放っている。宗次郎は歩を止め、【相互性鑑定】で確認した。
――抗酸化作用。消化促進。血糖調整。風味付け。辛味の代表。そして胃腸を整える効能。
六種が必要量の10kg揃ったことを確認し、宗次郎は静かに頷く。
採取した素材は用途ごとに分けた。乾燥が必要なものは通気性の麻袋へ、粉砕やすり潰しに使うものは香りを保つ革袋へ、そして化粧品や石鹸、香料に使う素材は柔らかな布袋へ。すべてを仕分けたのち、【収納】に収める。
「これで十分だ」小さく呟き、足を進めた。
四階層は静謐で、時折、水滴が岩肌を伝い落ちる音が響くだけだった。宗次郎は淡々と素材を集めながら、この階層全体が一つの宝庫であることを確信した。三階層を超えられるなら採取部隊を編成しても良い――そんな考えが自然と脳裏に浮かんでいた。
やがて五階層へと降りる。かつてルーナとレティーシアが転移罠にかかった場所だ。今の宗次郎には、魔法陣を起動できる指輪がある。だが目的は別にあった。
「果樹だな」
目を凝らすと、岩場の奥に枝を広げる樹が見えた。近づき、枝に手を触れる。スキルによってその構造を理解すると、実を【収納】へと送る。林檎と葡萄――山ほど採取できた。これは領民の栄養改善だけでなく、醸造用にも重要だ。シードルや葡萄酒の仕込みに使えるだろう。宗次郎の脳裏に、銅製蒸留器製作用の銅鉱石の必要量が自然と浮かんだ。
最後に、ボス部屋を覗いた。推奨レベルは三十。宗次郎にとっては確認に過ぎない。
待ち受けていたのは無言の像――ゴーレムだ。
「なるほど」
安全靴で一蹴すると、石像は崩れ落ち、魔力の光となって消えた。足元に浮かび上がる魔法陣が形を変え、やがて宝箱となる。
「……ミミックではないか」独りごちつつ、蓋を開ける。
中には光を帯びた結晶――ゴーレムコア。動力として、鍛冶屋のバルドルもルーナも欲しがるだろう。宗次郎は一瞥して収納し、魔法陣を起動した。光に包まれ、次の瞬間、彼はグリムヴァルダンジョンの一階層入口へと戻っていた。
そして、町の肉屋へと向かった。
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