愛していました。今日までずっと。【 短編 ~人魚の謎と2人の愛と絆の物語~ 】

ロナンス

第1話

【人魚編】 ~プロローグ~

彼からの手紙


 少年と少女は二人で過ごしていた。

 親に捨てられた──けれど、二人は幸せだった。

 寒い夜も、腹を空かせた日も、互いの温もりがあったから。


「私、捨てられてからずっと悲しかった。でも、セイのおかげで今とっても幸せ。この日々がずっと続くといいな。ずっと一緒にいたいな」


 サナは小さく笑いながら、目の奥に光る涙を拭った。


「僕も本当に幸せ。ずっとサナといたい。でもここでずっとは暮らしていけない。でも、僕らは絶対に離れない。僕が何があってもサナを守るから。絶対に」


 セイが真っ直ぐな瞳で言うものだから、サナはたまらず涙が溢れた。本当に今この瞬間が幸せなんだと胸に刻んだ。

 だが、幸せは長くは続かなかった。


 その夜、セイが戻ってこなかった。

「釣りに行ってくる」と出掛けたきり、姿が見えない。

 胸がざわめき、サナは走った。彼がいつも釣りをしている岩場へ。


 ──セイはいなかった。

 代わりにそこにいたのは、見知らぬ船と、大人たちの影だった。


「本当に子供が……お嬢ちゃん! 早くこっちに! ここから出よう!」


「いやっ!! いやだ!! セイが、私の友達がここに居るはずなの! 絶対に!!」


「ダメだ、これ以上長居すれば……無理やりにでも連れていくしかない」


 乱暴な腕に引き上げられ、視界が揺れる。サナは必死に抵抗したが、結局そのまま連れ去られてしまった。

 セイを置いて──。



 それから十年が経った。

 サナは施設に入れられ、その後、養子として引き取られた。

 そして今、彼女はレグナス学園でモンスターについて学んでいる。


 授業を終えた帰り道、サナは久々に海辺の道を歩いていた。

 潮風が頬を撫で、波の音が耳に響く。


 今でも毎日思い出す。

 海を見ると、胸の奥からあの頃の記憶があふれ出す。


「……セイくん」


 つぶやいた瞬間、視界の端に黒い影がよぎった。

 波間に何かが浮かんでいる。近づいてみると、それは防水袋に入れられた一通の手紙だった。



【元気ですか? 幸せに過ごせていますか?

 私のことは忘れてください。君にはいい人がいるから、僕はさせてあげられないから。幸せになってください。

 でも、それでもずっと、愛しています。】


【覚えていますか? 初めて会った時のこと。僕も君も親に捨てられて、この島に流れ着いた。僕は泣いていました。だけど、君は悲しいのを我慢して、僕を慰めてくれた。自分も悲しいはずなのに。そんな優しい君だからこそ幸せになって欲しい。】


【最後に。愛しています。そして幸せになってください。忘れてください……。】


 そこまで読んだ瞬間、サナの手が震えた。

 間違いない。──これは、セイからの手紙だ。


 視界が滲み、涙が頬を伝う。

「.......最低だよ。こんな未来なんて。」

 けれど、手紙はそこで終わりではなかった。


 裏に何かが書いてある。

【人魚島──そこに来て。助けて。誰か助けを呼んで。あの子を助けてあげて】


「……生きてる……。セイが、まだ生きてる」


 声にならない声が漏れた。

 彼は危険な目に遭っている。今、助けを求めている。


 サナに迷いなどなかった。

 彼に会いたい。助けたい。

 それだけが胸にあふれ、足が自然に動いた。



 校舎の裏庭に、ひとりの青年が立っていた。

 漆黒の髪に鋭い瞳、どこか影を抱えた表情──彼の名はアレン。

 サナは手紙を握りしめ、真っ直ぐにその背中へと歩み寄った。


「……お願いがあるの。聞いてもらえますか」


 こうして、十年前に失われた約束が、再び動き出そうとしていた──。

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