第11話:密約の影と決死の攻防 -2
特別牢の重い扉が開くと、そこに現れたのは、ロラン・ハントの娘リリアだった。
しかし、その時、地下通路の奥から金属の足音と、リチャードの刺客の冷たい魔力が迫ってきた。
ミレーヌは、即座に状況を判断した。
「ヴァネッサ、リリア! 防いで! メロディさんの結界解除に時間がかかる!」
ミレーヌは、メロディの体を触媒とし、特別牢の結界を解析魔術で完全に解除する工程を開始する。魔力の完全な解放には数十秒の集中が必要だった。
ヴァネッサは無言で前に出た。
リチャードの刺客がミレーヌの背中に向かって、高熱の火球魔術を放ったが、ヴァネッサは常人には認識できない速度で駆け抜けて叩き潰し、そのまま刺客の懐に飛び込んだ。
「ミレーヌ様に、指一本触れることは許しません。」
警備兵がリリアを囲み、リリアは狼の爪を顕現させて応戦する。血飛沫が飛び散り、リリアの唸り声が響いた。
「急いで、ミレーヌさん!」
そして、数十秒の死闘の末。
ミレーヌは叫んだ。
「メロディさん! 今よ! 解放したわ!」
結界が解けた瞬間、清らかな魔力の波がメロディの全身に流れ込む。
メロディは強い決意を瞳に宿し、高らかに歌い始める。
「♪~(歌声が響き渡り、警備兵や刺客が苦しみ出す)~♪」
◇◆◇◆◇
歌声が途切れた隙を突き、王宮の地下通路を走る四人。
メロディは、未だかすれた声ながらも、決定的な情報をミレーヌたちに伝える。
メロディは告げた。
「リチャード王子は…バルドゥール・クロスと、密約を交わしていました…。王国の財政をガリオン帝国に売り渡すための…『密約文書』…それが、王宮内のバルドゥールの商館に…!」
ミレーヌは息を飲んだ。
「『密約文書』…! それが、リチャードの目的だったのね!」
◇◆◇◆◇
王宮内の魔術師団執務室。
イリスとフェリクスは、メロディの救出とそれに伴う王宮内の魔力の乱れを感知する。
イリスは、驚きと焦りから声を震わせた。
「フェリクス様…! メロディ様の魔力が…王宮の外へ向かっています! しかも…ミレーヌ様たちの魔力と一緒に…!」
フェリクスは、その報に、怒りよりも深い衝撃と苦悩を露わにした。
「何だと…! ミレーヌ・エラン…嘘だろう、なぜお前まで!?」
彼の声は、親愛なる後輩が王宮を敵に回したという事実に、深く動揺していた。
◇◆◇◆◇
同時刻、リチャード王子の私室。
メロディの救出は、リチャードの計画が根底から崩されたことを意味していた。
リチャードは、激しい怒りと焦燥に駆られ、大理石の執務机を叩き壊した。
「(憤怒に満ちた顔で、執務机を叩き壊す)くそ…! メロディめ…! そして…ミレーヌ…!! もう…もう後には引けぬ…! 王宮を…王国全てをひっくり返してでも、奴らを捕らえろ! 私に…私に逆らう者は…!!」
◇◆◇◆◇
王都の安全な隠れ家(ミレーヌたちのアジト)にて。
処刑寸前の危機を乗り越えたメロディは、まだ疲弊しているものの、ミレーヌたちの献身的な看護で回復しつつある。
メロディはかすれた声で詳細を伝えた。
「王子の地下牢で、リチャード王子が密かに話しているのを聞きました。『盟約の証が奪われた今、セシリアの情報網を完全に潰し、第一王女レティシアにも最後の致命傷を与える』と……。そして、ガリオン帝国大使が、王国の国境付近で軍事圧力を高める手筈になっている、とも……」
ミレーヌは、手にしていた「密約文書」の写しと「盟約の証」を握りしめながら、怒りと確信を込めて言った。
「やはり、リチャード王子の狙いは、王族全体を貶め、混乱に乗じて王国をガリオン帝国に売り渡すことだったのね……!」
メロディの無事、そしてミレーヌが持ち帰った新たな情報・証拠を受け、第二王女セシリアは、第一王女レティシアに緊急の会合を要請した。
レティシアは側近のエレナを伴い、即座に隠れ家に到着した。
レティシアは、疲弊しきったメロディの姿に目を留めた。
「メロディ。無事で何より。よく耐えてくれたわ!」
セシリアは、目の前の姉に、焦りと怒りを込めてミレーヌから受け取った文書を突きつけるように言った。
「姉様、これを見て! リチャードは、もはや王位争いをしている場合ではない。彼が計画しているのは、王国そのものの売却よ。一刻も早く、エドワード兄様を説得しなければ、全てが終わるわ!」
レティシアは、受け取った『密約文書』の写しを静かに開き、その内容を読み込んだ。彼女の瞳は冷静だが、その奥には激しい怒りが燃え上がっているのが見て取れる。
レティシアは静かに結論を述べた。
「この署名、筆跡は間違いない。そして、ガリオン帝国大使ゼラス・ガルディアとの密約内容……リチャードは、王国の財政権と国境警備権を、実質的に帝国に売り渡そうとしている。私情や継承権の問題ではない。これは、国家反逆罪よ」
ミレーヌは緊張しながら付け加えた。
「メロディさんの情報では、ガリオン帝国軍はすでに国境で軍事圧力を高めていると……動ける時間は、刻一刻と減っています」
レティシアは即座に決断し、側近のエレナに視線を送った。
「エレナ、すぐにエドワード兄様の居場所を特定しなさい。最も安全な私室へ、私たちが乗り込む手配を。セシリア、貴女も私に付いてきて。私たち二人の王女が揃って訴えれば、兄様も事態の深刻さを理解するはずよ」
セシリアは力強く頷いた。
「仰せのままに、姉さま! 必ず、兄様を説得してみせるわ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます