第10話:密約の影と決死の攻防 -1
シャドウランドの隠された集落。
長老に「盟約の証」の写しを渡し終えたミレーヌ、ヴァネッサ、リリアの三人は、王都への帰路に就くため、古木の連なる結界の縁に立っていた。
イリスは通信魔術越しに叫んだ。
「ミレーヌ様! 緊急事態です! メロディ・サイレンス様が、情報操作の容疑で逮捕されました!」
リリアは激しく動揺し、ミレーヌに訴えた。
「メロディさんは、僕たち狼男の一族と、人間社会を繋いでくれる、大切な友人なんだ! 父さんが王都で密かに調査をしていた時も、彼女が人ならざる者たちの情報をまとめてくれていたんだ!」
イリスは切羽詰まった声で告げた。
「リチャード王子は、彼女の容疑を『セイレーンの歌声による王族への重罪(反逆罪)』と速やかに確定させ、明日にも処刑しようとしています! 場所は王宮地下、第二区画の特別牢です!」
ミレーヌは悲鳴を上げた。
「はひっ!? あ、あ、、 明日ですって…!?」
ヴァネッサは冷静に告げた。
「王都へ急ぎましょう、ミレーヌ様。メロディ・サイレンスは、王宮内の情報戦における、セシリア殿下の命綱です」
◇◆◇◆◇
シャドウランドの森から王都への街道。
ヴァネッサは、感情を読ませない紅い瞳で、リリアを静かに見つめた。リリアは、焦燥に駆られた表情で、ヴァネッサに頷き返す。言葉はなくとも、「通常の方法では間に合わない」という共通認識が、二人の間で瞬時に交わされた。
ヴァネッサは無表情に告げた。
「時間はありません。ミレーヌ様、失礼いたします」
リリアは叫んだ。
「ミレーヌさん、しっかり掴まって!」
ミレーヌは言葉を失った。
「え? ちょっと待って、何を…ひゃっ!?」
ヴァネッサは、ミレーヌの腰に腕を回すと、まるで軽い荷物のように片腕で小脇に抱え上げた。リリアは、ミレーヌの背中を押すようにして、数日かかる道のりを超人的な脚力で駆け抜けた。
ミレーヌの絶叫が森林地帯にこだまする。
「ひぃやああああああああああああああああああああああああ!(悲鳴)」
◇◆◇◆◇
深夜、王宮・第一王女レティシアの執務室。
リチャード派の貴族たちが去った後、レティシアは執務室でエレナ・ファルツとサラ・グレンからの報告を受けていた。
エレナは緊迫した面持ちで報告した。
「殿下。市井の噂は、完全にリチャード殿下寄りに傾いています。市民はメロディ様の歌声が『反逆の魔術』に使われたと信じ込み、処刑を支持する声が……」
サラは唇を噛み締めた。
「私たちは、メロディ様の無実を訴えるビラを密かに流していますが、リチャード殿下の情報操作の速度に追いつきません。このままでは、裁判を経ずにメロディ様が……」
レティシアは、憂いを帯びた表情ながらも冷静だった。
「待っているだけでは、状況は悪化する一方よ。皆、私の指示を聞いて」
レティシアは、エレナとサラの顔をしっかりと見た。
「エレナ、サラ。あなたたちは引き続き、王都の情報網と世論操作を担い、疑惑の火種を絶やさないで。そして、アリアには私の私設護衛団と連絡を取り、いつでも動けるように待機させて。ミレーヌたちが戻ってきた時のための、安全な隠れ家も確保しておくのよ」
レティシアは一度区切り、厳しい表情で付け加えた。
「フェリクスにも、私から密かに指示を出すわ。彼には王宮魔術師団内部の不穏な動き、特にリチャードが接触している魔術師や呪術の兆候を徹底的に監視させる」
エレナとサラは、主人の指示を一つの言葉も漏らさず、心に刻もうとと耳を向けている。
「いいこと? 私たちに残された時間は少ない。リチャードは、国王陛下、父上の呪いの真実と、彼自身の悪事が暴かれることを極度に恐れている。ミレーヌが必ず、真実を掴んで戻ってくる。私たちがすべきは、その時まで、情報と武力、両面で反撃の態勢を整えることよ」
二人は決意を新たにした。エレナは「御意に」、サラは「必ず成し遂げます」と答え、深夜の王宮へと消えていった。
◇◆◇◆◇
三人は、急いで王都へと戻った。ミレーヌは、超加速の衝撃で全身が震え、目が回っていた。
ヴァネッサは、感情の読めない紅い瞳で王宮の地下深くを見据えていた。
「(静かに)地下から、微かな魔力の気配。イリスの報告通り、歌声を封じる古代の結界か」
王宮地下通路。メロディが囚われている特別牢は、セイレーンの魔力を封じるために、何重にも強力な結界に守られていた。
ミレーヌは、その強大さに絶望した。
「こんな結界、正面からじゃ絶対に無理よ…!」
ヴァネッサの魔力で結界が一時的に歪んだ隙を、リリアが見逃さない。
「ここだ! この奥に、隠し通路の匂いがする!」
最後に、ミレーヌが解析魔術で結界の弱点を見抜き、結界を解除した。
三人の限界を超えた連携が、強固な結界を打ち破った。
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