恋愛心理学~心理学部男子がアプリで大失敗からの大逆転劇~

山田花子(やまだ はなこ)です🪄✨

第1話「名前3回ハロー効果」 ~CUPID β v1.0 初回起動~

 心理学部2年生の小野寺悠真は、今朝もスマホと格闘していた。



『CUPID β v1.0(キューピッド・ベータ)- AI恋愛アシスタント』


『初回起動です。恋愛経験値を入力してください』


「恋愛経験値……ゼロです」




『理解しました。超初心者モードで開始します』



 講義室の後ろの席で、悠真は恥ずかしそうにスマホを操作していた。



 心理学を学んでいるくせに、人の心が全く読めない。特に、異性の心理なんて量子力学より難解だ。



「おはよう、悠真くん♪ 今日も早いのね」



 振り返ると、同じ心理学ゼミの椎名彩花が笑顔で話しかけてきた。



 今日の彼女は淡いピンクのカーディガンを着ている。



 悠真(心の中):「ピンクか……心理学的にピンクは母性や優しさを表すって言われてるな。でも彩花さんの場合は、そもそも天然で優しいから色関係ないかも。それよりも、この近距離で話しかけてくるってことは……もしかして俺に好意が?!」



「あ、おはよう、椎名さん」



 悠真は慌ててスマホを隠した。



「何見てたの? もしかして心理学の新しいアプリ?」



「い、いえ、そんなんじゃ……」



 その時、スマホが勝手に起動した。



『緊急事態検知。恋愛対象接近中。戦闘モードに移行します』



「戦闘モード?」



『対象女性を分析中……』



 彩花が興味深そうに覗き込んできた。至近距離で彼女のシャンプーの匂いがふわりと漂う。



 悠真(心の中):「近い!近すぎる!このシャンプーの匂い、確かフローラル系だな。心理学的に香りは記憶と直結するから、彼女の匂いを覚えることで恋愛感情が……って、今そんなこと考えてる場合か!」



「わあ、恋愛アプリなんだ! 心理学部なのに恋愛苦手なの?」



「そ、それは……人の心は複雑で……」



『分析完了。対象:椎名彩花。初期戦略を提案します』



 彩花の名前まで表示されてしまった。彼女は画面を見て、くすくす笑った。



「私が恋愛対象って認識されちゃった♪ この子、すごいAIね」



『推奨戦略:「ハロー効果」活用法』


『心理学用語を使って知的印象をアピールしつつ、名前を3回呼んで親近感を向上させてください』



 悠真(心の中):「名前を3回って……それって心理学というより呪文だろ。でも確かにハロー効果は実在する現象だし、一つの良い印象があると全体的な評価が上がるって理論は正しい。名前を呼ぶことで親近感が増すのも心理学的には……」



『詳細解説:人は自分の名前を呼ばれると快感物質ドーパミンが分泌されます』



 悠真(心の中):「ドーパミン!? まさか名前を呼ぶだけで彩花さんに快感を与えられるの?!それって……それって……なんか怪しいサプリメントの宣伝文句みたいな……」



『実行カウントダウン開始。3…2…1…』



 悠真(心の中):「ちょっと待て!まだ心の準備が!名前を3回って、冷静に考えて呪文だろ!アブラカダブラの親戚か!でも心理学的には……いや、でも3回って回数に科学的根拠あるの?2回じゃダメ?4回は多すぎ?」



『2…1…実行してください』



 悠真(心の中):「AI、カウントダウン無視されてるけど大丈夫?機械なのにせっかち?でも確かにドーパミンは快感物質だし、名前を呼ぶことで親近感が……ちょっと待て、これって結局、俺が彩花さんに『アヘンみたいな快感』を与えるってこと?!俺、薬物犯罪者になっちゃうの?!」



「あ、あの!」



 講義が始まろうとしていた。教授が入ってくる。



 悠真(心の中):「やばい、もう時間がない!でもこのチャンスを逃したら……今度はいつ話せるか分からない。でも名前を3回って、もし彩花さんが『なんで3回?』って聞いてきたらどう答える?『AIが言ったから』?それ思考停止人間じゃん!『心理学的根拠があります』?嘘つき野郎じゃん!」



『緊急事態。教授接近中。実行確率97%で今しかありません』



 悠真(心の中):「97%って何の確率だよ!成功確率?失敗確率?社会的死亡確率?でも……でも彩花さんのドーパミンを……いや、ドーパミンって言い方がもうエロい!普通に『快感物質』って言うなよAI!誤解するだろ! でも、やるしかない……ええい、人生一度きり!やってやる!恥かいても死なない!多分!」



「椎名彩花さん、椎名彩花さん、椎名彩花さん!」



 講義室が静まり返った。



 教授も、他の学生も、みんなが振り返った。



 彩花は目を丸くして、それから小さく吹き出した。



「……なんか、お経みたい」



 周りの学生たちもくすくす笑い始めた。



「南無阿弥陀仏みたいだったよ」


「悠真、今度は宗教にハマったの?」



『失敗しました。原因分析中……』


『エラー:宗教的印象を与えてしまいました』


『追加エラー:僧侶と認識された可能性があります』



 悠真(心の中):「僧侶って!俺、いつの間に出家したの?!明日から托鉢でもするの?!やっぱりダメだった……心理学を学んでるのに、人の心が読めない。それどころか、彩花さんに『この人、宗教勧誘するつもり?』って思われてるかも……」



『さらなる分析:周囲の学生が『南無阿弥陀仏』と連想しています』



 悠真(心の中):「南無阿弥陀仏って!俺のせいで講義室が法要会場になってる!この後『般若心経』でも唱えると思われてるんじゃ……。AIのせいで俺の大学生活が終わった。明日から『お坊さん悠真』って呼ばれるのかな……」



 でも、彩花は優しく微笑んで言った。



「でも、面白いね。その子(AI)、私たちの恋愛、どうやって分析するんだろう?」



 悠真(心の中):「『私たちの恋愛』って言った!彩花さんが『私たちの恋愛』って!ということは、俺と彩花さんの恋愛の可能性を認めてくれてるってこと?!」



 悠真の心臓がドキンと跳ねた。



「恋愛……ですか?」



「うん。実験みたいで面白そう♪ 心理学的にどんな結果が出るのか楽しみ」



『新たなデータを取得。対象の興味獲得に成功』


『次回バージョンアップで改善予定』


『v1.1では「図書館での偶然遭遇システム」を搭載します』




 悠真(心の中):「図書館での偶然遭遇って……それもうストーカーじゃないか。でも、彩花さんが実験に興味を持ってくれたなら……」




「それじゃあ今日の講義、一緒に聞こう♪」




 彩花が隣の席に座った。




 悠真(心の中):「隣に座った!彩花さんが隣に!これってもしかして、さっきの名前3回作戦、実は成功してたってこと?!」




『分析:予想外の展開。成功とも失敗とも判定不能』


『明日、v1.1にバージョンアップします』




 まだ始まったばかりだ。




 AIの力を借りながら、きっと彼女の心を掴めるはず……。




 そう信じて、悠真の奇妙な恋愛実験が始まった。




 💡 第1話の心理学ネタ


 - ハロー効果: 一つの優れた印象が全体評価を引き上げる現象


 - 初頭効果: 最初の印象が後の評価に大きく影響


 - 心拍数・瞳孔: 恋愛感情の生理的指標


 - 親近感の法則: 名前を呼ぶ回数と好感度の関係(AIの誤解釈)




 🎭 次話予告


 第2話「図書館での単純接触効果」- AIが提案する偶然の演出が、まさかのストーカー疑惑に?

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