俺と彼女は百合ップル!?ー彼氏の俺まで彼女になったってどういう事だよ!ー

ばばろあ

夏休み初日編

7月19日(土)

第1話 「鏡の中にいる女の子は俺でした」

7月19日、土曜日。


「……え?ちょ……な、何だよこれええぇぇ!?」


 その日、鏡の中にいたのは、俺ではなく──見覚えのない、“女の子”だった。


 ◆◆◆


 ──つい数分前の事。


 夏休み初日の朝。休みを満喫するべくぐっすりと眠っていた俺は、彼女とのデートに間に合うよう、お昼前には目を覚ました。


「ふわぁあ……」


 寝過ぎたせいで、逆に眠い。でも、今日は喉の調子が良さげだ。喉仏が取れたかのように、大あくびがスーッと抜けていく。


 ゆっくりと身体を起こし、ベッドの上で身体を伸ばした。日差しを取り込む窓ガラスに、薄く自分の姿が反射する。


「……ん?」


 なんか今、女の子がいたような。と言うか、俺自身が女の子に見えたような……?


 ……誰かが外を歩いてただけだな、うん。俺は寝ぼけた目を擦りながら、適当な手鏡で自分の顔をよーく見た。


 ◆◆◆


 ──そして、今に至る。


 え、何で?どうして俺、女の子になってんの?夢にしてはクオリティが高過ぎるんだけど?


 何とか心当たりがないか頭を捻らせてみたが、それらしいものは浮かばない。


「え、えっと、とりあえず状況確認……」


 自分のものとは思えない可憐な声が、凄まじい違和感を覚えさせる。


 まずは、室内を見回してみた。窓際にあるベッドに、散らかった日用品。どれを取っても俺の部屋そのもの。別に、誰かと入れ替わった訳ではないと。


 いや、理由を探ったって分かるはずもないな。どっちにしろ俺は、この状況を受け入れることしかできないんだ。


 一旦、全身の変化具合を確認するために、わざわざ立ち鏡を引っ張り出した。別にやましい思いはない。断じて。


「へぇ……ほぉ……」


 鏡に自分じゃない誰かが写っているのは、何とも不思議で、おかしな感じだ。


 改めてじっくり見てみると、意外と顔立ちは悪くない。一言で言えば、可愛いらしい。


 伸びた髪は艶々してて、肌も大福みたいにもっちりスベスベ。その肌を撫でる手もちっちゃくて可愛いし、合わせて背も少し縮んだ気がする。


 そして、やはり目を引いたのはアレだ。胸元で膨らむ、パジャマのシワをピンと張らす2つの山。思春期真っ只中の俺は、思い切ってそれに触れた。


 ……何だこれ、すげぇ。マシュマロみたいに柔っらかい。弾力があるのに沈み込んで、でも奥には芯がって……何真面目にレビューしてるんだ俺。


 俺はこの日、人生で初めて女性の胸に触った。まぁ、初めてが自分のものだなんて、思ってもいなかったが……。


 ──そんな事をしている、その時だった。


「叶多ー!起きなさーい!」


 ……ヤバイ。リビングから、母さんの声が飛んできた。驚き過ぎて声も出せない。


 と言うか休みだってのに、どうしてわざわざ起こしてくるんだうちの親は!


「お昼前までには起こしてって言ったの、誰だと思ってるのー!」


 あっ……そうだ、俺が頼んだんだった。目覚ましの保険として……。


「叶多ー!!」


 って、そんな事考えてるてる場合じゃない!足音が段々と近づいてきてる!こんな姿を見られたら絶対に、在らぬ誤解を生みまくってしまう!


 俺は大急ぎで地面を蹴り飛ばし、温もりの残るベッドへ舞い戻った。それとほぼ同時に、自室のドアがガチャっと開いた。


「もう、いつまで寝てるの。早く起きなさ──ど、どうしたのその格好」


 一瞬、この件がバレたかと思って背筋が凍ったが、杞憂だった。


「体調でも悪いの?」


 どうやら母さんは、夏布団に包まれる俺を見てそう思ったらしい。優しい母で良かった。


 それはそうと『体調でも悪いの?』、か。これは使える。風邪と言えば部屋に引きこもれるし、顔を合わせる頻度も減らせれる。


 俺は布団の中でゴソゴソと動き回り、何とか母さんへYESと伝えた。


「あら、そうだったの。ごめんね。大声で呼んだりしちゃって」


 謝罪なんていいよ。頼んだのはこっちなのだから。それよりも早く出てってくれ。


「でも、確か置き薬は切れちゃってたし……」


 ……ん?何だか雲行きが怪しくなってきてないか?そう思っている間に、俺の嫌な予感の当落結果が出た。


「じゃあ、病院に行きましょっか」


 病院?あぁ、病院か。風邪引いてるなら行くべき──って、はぁ!?そんな場所行けるかっての!身体が女の子とか以前に、研究対象として即捕縛されるに決まってる!


「準備してくるから大人しく待ってるのよ」


 当然、無闇に声も出せない俺は、母さんを呼び止める事などできるはずなく、部屋を出ていく足音を聞いているしかなかった。


 ドアは、ガチャリと無慈悲な音を立てながら閉まった。


「ヤ、ヤバい、マジでどうしよう……」


 母さんがいなくなったタイミングで、俺は布団から顔を出した。


 この可憐な声を気にする暇さえない。心臓がどんどんと早鐘を打っていく。


 一度体調が悪いって言ったからには、心配症の母さんは何が何でも病院に連れていくはず。今更嘘だって告白しても、俺は普段通り過ごさないといけなくなる。となると、ここにいる限り、遅かれ早かれ俺の姿は見られる。……俺、詰んだ?


 い、いや、まだ何かできることがあるはずだ。


 何か、何かできることは……。


 ──こうなったら、一か八かの大賭けだ。俺はパジャマを脱ぎ捨て、できるだけ女の子が着てても違和感のなさそうな服に着替えた。


 一応、立ち鏡の前で身だしなみを整える。……うん、この感じなら大丈夫だ、多分。


 防災用に部屋に備えておいた靴を履き、片手にはスマホを握る。


「よしっ……行ってきます」


 出発の挨拶と共に、俺はそのまま、窓から家を飛び出した。

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