第3話:Bar Grand Pa─紫煙なき夜にて─
旧友が神戸に戻って来ている。
彼希望の焼鳥を平らげ、2軒目に。
北野のMusic Barで、ビリー・ジョエルのレコード盤を聴きながら、ウィスキーをロックで飲みたい。そんな希望をもらったが、残念ながら目当ての店は、休みだった。
さて、困った。
海外暮らしも長く、今もシドニー在住の彼は、喫煙に関しては、中々厳しい。(世界一の煙草会社からのスカウトを真剣に考えたあの頃が、もはや嘘のようだ。)
煙草を吸わない私だが、Barでの酒と煙草はセットのイメージがある。薄暗い店内、仄かなライトに照らされる、紫煙のゆらめきは魅力の一つでもある。
とはいえ、久々の帰郷の彼への接待。紫煙のゆらめきを熱く語って、煙に巻くわけには行かない。
禁煙Bar探しでの新規開拓。
東西に走る、生田新道。
南北に走る、北野坂と東門筋。
神戸三宮は、その数百メートル四方に幾つもの飲み屋が密集している。その店は、そんな飲み屋街に佇む旧いビルの2階にあった。
店の名前は、『Bar Grand Pa』。
【禁煙】とは名ばかりのお店も多いが、店に入った瞬間、ここは、空気感が違った。少しシトラスの混じった爽やかな空気。会話の邪魔にならない、柔らかな指引きギターの音色が心地良い。そして、そんな静かな店内にマッチした、上品な客層も良い。
何より圧巻の壁一面のボトル。ライトで煌めく光景は、山側から見る、神戸の夜景の様で美しい。
そして、『モヒート』。
この頃は、良いミントが無いと断られる事が多いが、自家製ミントのモヒートは嬉しい味だった。
旧友も、数多くのウィスキーラベルを見ながら、店主とのウィスキー談義で盛り上がる。
久々に、良い店を見つけたなと思う。
どうやら彼の中では、神戸の“2軒目”は、しばらくここに決まったらしい。嬉しそうに、彼はジョニー・ウォーカーの人形の頭を優しく撫でた。
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