第13話 ディランの決意
村の広場でディランは深呼吸し、アルノルトに向き直る。
「……王都に行く」
アルノルトは少し驚き、しかしすぐに頷く。
「……わかりました。私も同行します。王国の安全を守るため、必要とあれば力を貸します」
ディランの瞳には迷いがあったが、その奥には確固たる決意が光っていた。
(……行く。村を守った以上に、王国で起きている異常の原因を突き止めるために)
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[2:51]
馬車に荷物を積み、森の小道を抜ける準備が整う。
村人たちは別れを惜しんだが、ディランの決意は揺るがない。
ライナルト領主は静かに声をかける。
「ディラン、村は任せた。無理はするな」
アルノルトも剣を握り直し、鎧を点検する。
「……私はまだ、あなたの力を信じているわけではありません。でも、王国の安全のために共に行動します」
ディランは微かに苦笑し、馬車に乗り込む。
ディランの胸に、昨夜の戦いの記憶が甦る。
仮面の魔族――あの異様な姿、冷徹な嗤い、そして禍々しい魔法。
(……奴の目的は何か……王都に繋がっているのか? 誰に従っているのか?)
その答えはまだ闇の中にあった。
しかし、ディランは行く。村と王国を守るため、そして仮面の魔族が何者であるかを確かめるために。
アルノルトは隣で黙り、馬車の揺れに合わせて剣を握り直す。
まだ心の底では完全に信じてはいない――しかし今は、彼と共に進むしかないことを理解していた。
馬車が王都グランディアの門をくぐる。
白亜の塔が朝日に輝くはずだったが、街には不穏な空気が漂う。
市民たちは震え、衛兵は厳しい警戒態勢を敷いていた。
黒い爪痕を残した魔物の報告が、街のあちこちで広がっている。
ディランは窓越しに街を見つめ、静かに呟いた。
「……やはり、異常だ」
アルノルトは馬車の脇で剣を握り、緊張の面持ちを崩さない。
「……王都の状況も、村と同じく魔物が活性化しています」
ディランは眉をひそめた。
馬車は王城の庭に到着。城門を守る衛兵たちが、アルノルトと共にディランを案内する。
王都に到着したディランを迎えたのは、王子レオニールと王女セレナ、そして王妃ディアナだった。
「……ディラン、あなたがこの危機に駆けつけてくれるとは」
レオニールの声には、初めて彼に頼る緊張と期待が混ざっていた。
セレナは少し驚きつつも、深く頭を下げる。
「村の件、そして王都の魔物事件……ありがとうございます」
ディアナ王妃も柔らかく微笑みながら礼を述べる。
「ディラン、貴方の力を王国のために貸していただけますか?」
ディランは淡々と答えた。
「村のことは無事でした。だが王都でも魔物が活性化している。原因を確認する必要があります」
アルノルトは静かに立ち、両王族を守る姿勢を示す。
「私も同行します。ディランの力を王国のために活かすために」
王城内の会議室で、衛兵や魔法顧問たちが次々と報告をする。
「城下町で大型魔物の目撃報告が複数あります」
「結界に異常が生じ、通常の防御魔法が効きにくくなっています」
「昨夜、貴族の屋敷近くで不可解な現象も……」
ディランは報告書に目を通し、眉をひそめる。
「……これらは自然現象ではない。何者かが魔物を意図的に動かしている」
アルノルトは微かに身を震わせる。
(……やはり、村の魔物と同じだ……制御されている……)
ディランは昨夜の戦いの記憶を甦らせる。
仮面をつけた魔族――赤い瞳、蝙蝠のような翼、禍々しい杖。
奴の存在が、今回の異常の核心に関わっている可能性が高い。
(……奴を追えば、事件の糸口が掴めるかもしれない)
しかし誰がその魔族を動かしているのか、目的は何か――その答えはまだ見えない。
ディランは心の中で決めた。
(……まずは、魔物事件の調査だ。仮面の魔族が何をしているのかを突き止める)
ディランとアルノルトは、王城から王都の街へ足を踏み入れる。
焦げた跡のある通り、避難する市民、混乱する衛兵――全てが異常の証だ。
ディランは闇魔法で視界を広げ、魔物の痕跡や異常な魔力の流れを探る。
アルノルトは横で警戒を怠らない。
街の中に潜む危険を警戒しつつ、魔物の異常な動きの原因を追う。
まだ魔族の正体や背後の勢力は分からない――だが、彼の力であれば必ず突破できるはずだ。
闇の魔力が静かに周囲に広がり、王都に潜む影が少しずつ浮かび上がる。
王城の大広間――天井の高い会議室には、王族、衛兵指揮官、魔法顧問が集まっていた。
その中心に立つのはディラン。黒衣を纏い、闇魔法の微かな気配を漂わせる。
王子レオニールは眉をひそめ、王女セレナは真剣な眼差しで見つめる。
王妃ディアナも静かに椅子に座り、状況を注視していた。
アルノルトはディランの横で剣を握り、城内に潜む魔力の気配を警戒する。
ディランは地図を広げ、昨夜から今朝までの魔物目撃情報と村での襲撃の痕跡を指し示す。
「王都内、城下町、そして辺境の村――魔物の異常な活性化が確認されています。規模や種類、行動パターンに不自然さがあります」
王子レオニールが問いかける。
「……それは、何か原因があるということか?」
ディランは視線を鋭くし、仮面の魔族の影を思い浮かべながら答える。
「自然現象ではありません。誰か、もしくは何かが魔物の行動を誘導している可能性があります」
王妃ディアナは穏やかに言葉を足す。
「つまり、単なる魔物の暴走ではない、と」
ディランは頷く。
「そうです。ただし、現時点では操っている者や目的までは特定できていません。ですが、昨日の村で遭遇した存在――仮面の魔族――が、鍵になるかもしれません」
ディランは魔法陣を床に描き、仮面の魔族が放った痕跡を再現する。
赤い瞳、蝙蝠のような翼、禍々しい魔法――痕跡だけでも通常の魔物とは異質であることが一目でわかる。
王女セレナが息を飲む。
「……あのような存在が、この王都にも現れるのですか?」
ディランは淡々と答えた。
「現れる可能性があります。少なくとも、村の襲撃や王都の魔物の異常行動と関係がある可能性は高い」
王子レオニールは歯を噛みしめる。
「……それなら、我々も万全の準備をせねば」
王妃ディアナも厳しい表情で頷く。
「ディラン、あなたの力を王国のために貸していただけますか?」
ディランは静かにうなずく。
「……協力します。まずは魔物事件の現場を確認し、原因を突き止めることから始めましょう」
会議では、衛兵団と魔法顧問がディランの指示に従い、王都内での魔物警戒態勢を強化することが決まった。
アルノルトはディランの横で、まだ警戒心を緩めずに言葉を添える。
「まずは王都全体の防御を固め、仮面の魔族の影を追う……これが最優先です」
ディランは微かに微笑む。
「……その通りだ。だが、動くのは俺たちだけじゃない。魔物はどこにでも潜む。油断は禁物だ」
王子も王女も、ディランの言葉に緊張と信頼を同時に覚える。
これから始まる、王都での戦いの序章――それは仮面の魔族の存在と、まだ見えぬ背後勢力の影に向かう第一歩だった。
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