闇の中の火花

夜の雨の下、街は息をしていた。水たまりが、ネオンのぼやけた光と廃墟ビルのシルエットを映していた。




少年は細い路地を駆け抜けた。足音は油まみれの水たまりに鈍く響き、赤い光の反射に混ざった。雨が顔を叩き、汗と混じった。




彼は振り返らなかった。何もないと知っていたが、冷たく鋭い鋼のような視線を感じた。心臓は胸の中で足音のように暴れ、逃げようとしていた。――握りしめた拳は、寒さのためではない。恐怖が、心の奥深くでより強い爪を立てていたからだ。




角を曲がる。錆びたコンテナの狭い隙間。滑りやすい階段を上る。あと数歩で、重いドアが壁にぶつかる鈍い音が響いた。ドアを閉め、背を預け、冷たい床に滑り落ちた。ドアの向こうで雨はまだメランコリックな歌を囁いていたが、今は遠い嵐の残響のように聞こえた。




彼は家に着いた。少なくとも、彼が「家」と呼ぶ場所に。しかし、心臓はまだ激しく鼓動していた。




少年は息を切らして呟いた。




「ふう…もう…もういい…」




エレベーターに近づき、5階のボタンを押した。




エレベーターの中で、彼はこれまでのことを考え始めた。




(内心)「どうしてこうなったんだ?バスに遅れた…結局、家まで走る羽目になった。あのジジイのせいだ。俺のモジュールが劣るって?黒い市場に来て何を期待してんだよ。クソ!金があれば、こんな連中のために手を汚す必要なんてなかった…どっかの会社のエンジニアとして働けたのに。いや、最悪なのは、前職と同じルーチンワークになることだ…」




エレベーターの到着音が思考を遮った。




黙って鍵を取り出し、13号室のドアに近づいた。ため息をつき、ドアを開けた。




濡れたジャケットを脱ぎ、ヒーターの近くの椅子に掛けた。それからパソコンを起動した。




(内心)「何か食わなきゃ…この『市場』じゃまともな飯も買えない…故郷の街からこの街に引っ越してきたこと、後悔してるよ。クソ、この街で何が起きてんだ?みんなモジュールや強化に取り憑かれてるのか?モジュールなしじゃ生きていけないのか?俺みたいにモジュールや強化がない奴でも、生きてるじゃん…いや、自分を騙すなよ。お前はただ、金がないから本物の強化を買えないだけだ。自分で作った人工のゴミを体に埋め込むなんて、絶対にしない。いい素材は高い…」




パソコン前で一瞬立ち止まり、キッチンに向かった。棚から四角いパックを取り出し、呟いた。




「ほら、これだ!『世界一のグルメ!』…インスタントラーメンか…」




絶望した者特有の、悲しい笑みを浮かべた。




ラーメンを茹でて、パソコンのテーブルに運んだ。




黒い市場の自分の出品ページを開くと、注文のレビューが見えた。




(内心)「よし、評価はどうだ?…お、3つ星、4つ星、3つ星…1つ星!?」




その評価を見た瞬間、怒りが湧いた。




「何だよ!俺がミスるわけないだろ!売る前に強化モジュールの動作を必ずチェックしてる…自分で試さないけど、ちゃんと確認してる!よし、レビュー見てみよう…クソ、あのジジイだ。『この男は客として扱わない!商品も大したことない!この男には近づかない方がいい!』だと?これか…」




レビューを読みながら、足をばたつかせた。顔に怒りが浮かんだ。




(内心)「もうみんなクソだ!この黒い市場も!どっかの会社で働けばいい、こんな連中から離れられるなら…アカウントも削除だ」




設定画面を開き、「プロフィールを削除」ボタンにカーソルを合わせた。一瞬考え、クリックした。




(内心)「次は履歴書を載せられるサイトを探さなきゃ…よし、見つけた。登録完了…残りは履歴書を記入するだけ」








【履歴書】




【名前】アルヴィン


【姓】ホルト


【希望職種】雑務員


【年齢】20歳


【ID番号】93579275


【自己PR】


アルヴィン・ホルトです。責任感があり、勤勉な技術者です。雑務の経験があり、新しい業務に素早く適応できます。チームでも個人でも効率的に働き、ストレス耐性があり、時間厳守で、始めたことはやり遂げます。不標準的な問題解決の経験があり、業務を迅速に遂行します。




職歴


3年


雑務員、TechServ(国際物流・メンテナンス会社)


・各種修理・技術業務の遂行


・機器の安定稼働確保


・職場環境の維持




【前職の推薦状(ある場合)】


(ファイル添付)




【履歴書送信】








(内心)「もう一度確認…よし、大丈夫だ」




「履歴書送信」を押すと、アルヴィンはゆっくり椅子に座った。




机を見つめながら考えた。




(内心)「ツールはどうする?売るか?いや、いつか必要になるかも…




アルヴィンの部屋は他人から見れば散らかり放題だったが、彼にとっては完璧に整理された空間だった。部屋の隅、散らかった机の横に、彼の「助手」――失敗したロボットのような機械のフレームが立っていた。人工関節にははんだの跡があり、胸部のマイクロチップには細いワイヤーが血管のように繋がっていた。目や声のない無機質なテストシェルだったが、アルヴィンは独自に人格を想像していた。無口で忍耐強く、痛みを感じない人間のような存在。




机は異世界の欠片のようなツールで埋まっていた。中央にはnanovisionのレンズ――普通のメガネのように見えるが、活性化すると淡い緑に光り、プラスチックの微細な亀裂や見えないレーザーマークさえ捉える。近くには小さなプラズマ溶接機。針のようなノズルがついた小型ツール。




少し離れたところに、傷だらけの古いロゴ付きのダルゲットスキャナー。どんな素材の構造も数秒で分析できるが、アルヴィンの他のツール同様、不安定だった。




机の端には磁気マニピュレーター。手袋状で、手首から指先へ細い金属ワイヤーが伸びる。これで小さな部品を触れずに持ち上げ、回転させられる。不見の手で操るようだ。




もちろん、彼の古いマルチツール。ドライバーとメスの中間のようなツールで、交換可能なノズルでどんな状況にも対応する。油と埃にまみれていたが、まだ機能していた。




椅子から立ち上がり、アルヴィンは作業スペースに近づいた。




「よし、便利に動かせる機械の腕を作りたいか?…仕事に就いたら、こんなもの作る時間なんてない…」




プラズマ溶接機を手に取り、笑った。




「よし、相棒、今日も持つかな?…前みたいに爆発しないよな?」




部屋は機械の柔らかなブーンという音に満ち、作業が始まった。アルヴィンにとって、これはただの仕事ではなく、生活そのものだった。








深夜。作業終了。ワイヤーとツールの乱雑さの中で、機械の腕が机に立っていた――ただの鉄の腕ではなく、アルヴィンのエンジニアリングの執念の産物。




デザインだけがユニークではなかった。アルヴィンは手動で操るつもりではなかった。特別なニューロインターフェースを作成した。光るスリムなコントロールヘルメットは、超薄型センサーで神経信号を読み取り、思考を精密な動きに変換する。




アルヴィンの手に、皮膚に薄いモーションセンサーを取り付けた。手首と指を巻き、筋肉の微かな動きを捉える。これらの信号はヘルメットと同期し、制御精度をさらに高める。




しかし、この装置の目的はもっと深い。アルヴィンのナノマテリアルは複雑な性質を持ち、生物組織に無秩序に反応する。軽い接触で連鎖反応を引き起こし、構造崩壊を起こすこともあった。機械の腕はそれを克服した。完全に安定した状態で素材とインタラクトできる。




疲れた様子でヘルメットを外し、髪をかきむしり、作業を眺めた。




「これだ…お前は俺の延長だ。今、どんな動きができるか見てみよう」




ヘルメットを再装着すると、機械の腕の指が震え、ゆっくり拳を握った。アルヴィンは微笑んだ。




突然、パソコンのスピーカーから通知音が鳴った。




センサーを外し、ヘルメットを脱ぎ、パソコンに近づいた。




(内心)「何だ?仕事の連絡?もう真夜中だぞ、仕事時間はとっくに終わってる…いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。誰かメールを送ってきた…」




椅子に座り、メールを開き、声に出して読み上げた。




「アルヴィン・ホルト様。貴方の履歴書が『Core Dynamic Systems』の目に留まりました。機器メンテナンスと修理経験に魅力を感じました。




当社で働きたい場合、技術スペシャリストのポジションを提案します。業務内容は機器の稼働監視、システム診断、故障時の修理・メンテナンスです。




月給1万ポイント、重大問題解決時はボーナスあり。




ご興味ありましたら、明日午前9時に来社ください。誠に、Core Dynamic Systems人事部。」




添付に勤務場所の地図があった。「家から近いな。」




アルヴィンは画面を見つめ、椅子の背に寄りかかった。




(内心)「こんなに早くまともな仕事が見つかるなんて思わなかった?給料もすごい…前職のピーク時でも月2000~2500ポイントくらいだった…怪しいな。でも、この会社は有名だ…よし、行ってみるか。詐欺かも知れないが、メールは公式っぽくて詐欺師らしくない…」




アルヴィンは立ち上がり、パソコンをオフにした。




「よし、朝確認しよう。今は寝る。」

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