ソナタさんの作品は、その背後にたくさんの色や光や知識が隠れている。
紡がれる言葉は絹のスカーフのように、軽やかで、するすると、上質な手触りを伝えてくれる。
人間になりたい吸血鬼の外科医エドガーと、彼の病院に偶然搬送された日本人の娘、流音(ルネ)
若手登竜門の国際ピアノコンクールを控えている流音だが、頼りなく、自信がなさそうだ。
一次審査の課題曲について、エドガーは流音にアドバイスをする。彼女が見たいと願う湖水地方に車で連れていく。
吸血鬼のエドガーがいわく、吸血鬼界隈で人気の曲は、ヴェルディ『怒りの日』なのだそうだ。
笑った。
二人の交わす会話は、気取りのないきれいな言葉で、端々に知性とユーモアがのぞく。
最低限の描写しかしないのに、物語の裏にはリバーストーンの首飾りや、窓際のヒヤシンス、水仙の咲き乱れる庭園を渡る海風などが見えてくる。
……湖のそば
木々の下
風になびいて踊ります……
ワーズワースの美しい詩にふさわしい美しいふたり。
しかし彼らは、人間と吸血鬼なのだ。
アメリカにながく暮らし、美術に造詣が深く、世界中を旅しているソナタさんならではの海外小説のような洒脱さと、野原に落ちるひかりのような明るさがわたしは好きで、次々と生み出される物語を、毎回、夢のように追いかけている。
読むといつも、「いつまでもこの世界に浸っていたい」と想うのだ。