第23話「休息と再編」
――放送スタジオ/各国ニュースルーム。
テレビ画面は左右に分かれ、両国のトップが別々の演台に立つ映像を交互に映し出していた。
ーーコロンゴ国営放送。ターナー大統領が戦場映像を背に、厳しい表情で訴える。
「コロンゴ国民の皆さん。現在我々の状況は大変深刻です。国民投票結果を受けても軽率な行動を控えた我々を、無惨にもエウロパは無視し、ご覧の様な非道な侵略を行っています。しかもNuGearによる平和の誓いまで踏みにじり、新兵器で無差別に攻撃を仕掛けているのです。これは明白な侵略行為です。政府は断固として国土を守る決意を示します。国民の皆さん、どうか我々と共にコロンゴを守ってください!我々にこそ“正義”があるのです!」NuGearによる平和の誓いまで踏みにじりこの様な新兵器郡を持って戦闘行為に及んでいるのです。これはエウロパによる侵略行為と言わざるを得ません。ここに至って政府は国民投票の結果も踏まえエウロパに対し徹底抗戦の構えをとる事としました。今必要なのは国民皆さんのコロンゴを守る意思です!どうか皆さん我々と共にこのコロンゴを守る力を下さい!"正義"我々にあります!」
演説の後、スタジオには大きな拍手が響いた。
ーー一方、エウロパ側の画面ではクライン首相が立つ。
「我が国は自衛のため行動した。何故ならコロンゴが先制攻撃を行ったからです。それも全てはあの愚かな国民投票によるものでしょう。ターナー大統領は国民感情を煽り戦争の理由付けをしたかったに他ありません。故に我々の戦闘は悪政者ターナーからエウロパを守る"正義"の戦いなのです。」
こちらも聴衆の拍手が鳴り止まない。
映し出される言葉と、夜に燃えた街の匂いは――明らかに乖離していた。
――タロン郊外・野営の仮休息地。
灰色のテントが並ぶ片隅、キースはヘレンの歌を流し、差し出された手紙を何度も読み返していた。
『ヘレンへ――街を守れなかった。だけど、君の歌を思い出している。次に会えたら必ず歌を聴かせてくれ……』
「だな、彼女の歌聴きたいな。」
「あぁ……ってレイ!またお前人の手紙横から読むなよー」
悪い悪いと手を立てながらレイが入ってきた。
「いつ聴いても良い曲だよね。会いたいねヘレン。」
ミリィも近づき、やさしく微笑む。
「ホントに良い曲だな。戦い疲れた俺たちにピッタリじゃねーか。スピーカーで流そうぜ。」
誰かがスピーカーに繋ぎ、ヘレンの歌が野営に流れる。歌は戦場の喧騒を一瞬忘れさせる、脆くも暖かな時間を生み出した。
(フォスター博士が去り際に“例の件”って言ってたな……アレの事なのか…?)
そんな小さな不安が、キースの胸にチクりと残る。
――同刻、ホワイトファング野営区。
リュウは通信端末に向かっていた。相手はコロンゴ本国ではない。画面に映るのは暗号化された応答だ。
《本部受領。報告:ホワイトファング戦闘記録 WX-19、タロン渓谷戦でも前回と同様と思われる暗号波を傍受。要請:先日取得の不明暗号波の再解析を求む。重要度:極秘。応答求む。》
数分、暗号化された返信が返る。
《了解。断片的な追跡は継続している。詳細は追って送る。注意せよ――この案件は扱える者が限られる。》
リュウは背後の気配に気づき、即座に端末を通常モードへ切り替える。
「本国に連絡を取っているのか?」オセリス大佐だ。
「はい。この現状は異常過ぎます。本国からは支援に時間がかかるとの事ですが…」
「現場の我々が深追いしすぎるな。まずは生き残ることが重要だ」オセリスはリュウの肩を軽く叩き、足早に去る。
リュウはモニターの暗い表示を見つめ、唇を噛んだ。
「……何者かが戦争を動かしている、”何者”かが…」
――タロン郊外・指揮幕舎。
各部隊は消耗を確認し、再編に入っていた。クタン大佐は地図に指を這わせながら静かに話す。
「次の要はバーミッカムだ。だが正直に言う、我々の戦力も限界に近い。持ちこたえられるか不安だ。」
オセリスが手を挙げる。
「ただ守るだけでは消耗で負けるだけだ。私は提案がある。敵将、バルディーニを討つ。指揮系統が混乱すれば進軍は鈍るはずだ。」
クタンは黙考の後に顔を上げた。
「……ホワイトファング隊にその任を与えよう。だが確実性が無い。よって私が前線へ出るて士気を鼓舞し、バルディーニを釣る囮となろう。」
「大佐、それは無茶です!」キースが声を上げる。
クタンの眼には、ただの衝動ではない覚悟が宿っていた。
「この侵攻が本当に政府の意思なのか疑わしい。軍部の暴走なら、バルディーニこそ封じるべき敵だ。バーミッカム司令としての責務を果たさせてくれ。」
――一方、エウロパ軍臨時司令部。
バルディーニ少将は苛立っていた。旅団は予定以上の損耗を出し、進軍が遅延している。
「この程度の損耗で臆するわけにはいかん!次は俺が先頭に立つ!出し惜しみ無しの総力戦だ!」
幕僚たちの士気は上がる。隣でミハエル少佐が静かに立ち上がり、言葉を選ぶように申し出る。
「少将、私が護衛を務めます。ただし一つだけ申し上げます。無用な犠牲は避けるべきです。兵を使い捨てにするような命令は…」
バルディーニは嗤い、命令を下す。
ミハエルはぎこちなく敬礼した。彼はまた一度自分の信念と軍令の狭間に立たされるのを感じていた。
――夜更け、ホワイトファングのテント。
キースはテントの外で空を見上げる。疲労が刻む顔に、ヘレンの笑みが浮かぶ。
(何のために戦うのか――)
答えは出ない。ただ、仲間がいる。歌が、確かに心を慰めた。
彼は小さく拳を握った。明日はまた戦場が彼らを呼ぶ。
だが今日は、まだ眠る時間だ。静かな夜の中、各々の決意が小さく燃え上がっていた。
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