第17話「ACE激突」

――ノースブリッジ前線。


白い雪煙の中、漆黒のACEが姿を現した。


「なんだぁ?外部音声で名乗ってきやがって、騎士のつもりか?」

レイが驚きと警戒を隠しつつ、ふざけた口調で返す。

「機種不明。新型…?!」

ミリィは見慣れぬ敵影に息を呑んだ。

「敵である事は確かだ。このまま行くぞ!」

キースの号令で、三機が漆黒のACE――ミハエルの〈プロト・ナイトメア〉に迫る。


「ファフナー少佐、三対一では不利だ。我々も援護を!」

「いえ、先ずは生還を優先してください。」

迫る敵を前にしても、ミハエルは戦場とは思えぬ落ち着きを見せていた。


「俺が牽制をかける!」

キースがアサルトライフルを構え、脚部を狙う。

だが、弾丸はあっさりと回避された。

「確かにACEの弱点は脚だ。だが、それはお互い様では?」

次の瞬間、ミハエルの銃弾がキースの脚を撃ち抜く。

「くそっ、やられた!」

「キース!」

援護射撃を放つレイ。しかしその刹那、ミハエルは一瞬で間合いを詰めていた。

「狙撃手には、この距離は怖かろう?」

「うぉっ、いつの間に!?」

グレネードが炸裂し、レイの機体が吹き飛ぶ。

「レイ! やぁぁーっ!」

ミリィがソードを振りかぶり突撃。

「そんな大振りでは隙だらけだが、いいのかな?」

ミハエルのショートブレードが閃き、ミリィの右腕が宙を舞った。

「きゃぁぁぁぁ!」


「くそっ、こいつ…!」

「今までの奴らとレベルが違う!」

「このままじゃ――やられる…! お父さま!!」


ズタズタにされた三機を前に、ミハエルは静かに言葉を紡ぐ。

「なるほど、三機の連携は見事だ。だがこのまま生かせば後の脅威となる。相手が悪かったと、あの世で嘆くがいい。」

その時、通信が割り込んだ。

「少佐、稼働限界です。帰還を!」

「もうか……了解。命拾いをしたな、コロンゴのACE。」


漆黒のナイトメアは翻り、雪煙の中に消えていった。


「……ハァ、ハァ……逃げたのか?」

「いや、見逃されたのだろう。あのACE、恐らく未完成だ。」

オセリスが冷静に状況を分析する。

「全敵機の撤退を確認。防衛戦は成功だ。各隊、帰還せよ。」


作戦は成功した。だが、三人の胸に残ったのは「勝利」ではなく、圧倒的な力への「恐怖」だった。



――帰還中のホワイトファング隊輸送機。

ミリィは未だ震えが止まらない。

それに気づいたレイがそっと手を膝に置いた。

「大丈夫か?」

「う、うん……でも、正直まだ怖くて仕方ない。これが戦争なんだって、分かってたけど…」

キースも俯いたまま呟く。

「俺たち、少し調子に乗ってたのかもな……真剣のつもりだったのに。」

「泣き言を言うな!」

オセリスの一喝が響く。

「確かに敵は強かった。だが、お前たちのこれまでの成果もまた、間違いではない。」

リュウも口を開いた。

「その通りです。敵の新型――性能差はほとんどありませんでした。あれはパイロットの力量によるものです。」

「じゃあ、やっぱりパイロットの能力差負けってことかよ……」

「それを認めるのも成長の第一歩だ。」

オセリスは厳しくも、どこか期待を込めた声で言った。

「それにしても……“ミハエル・ファフナー”か。わざわざ名乗ったのは、我々にその名を刻ませるためだろう。中々どうして、策士だ。」



――一方、撤退するエウロパACE大隊。


「お見事です、少佐!」

「いや、ナイトメアの性能を改めて実感した。ゴブリンでは相手にならないな。早速、再調整を上申する。」

「しかし、初陣とは思えない冷静さでした。」

レバト少佐が称賛する。

「いえ、内心は終始緊張しっぱなしでしたよ。今でも手が震えています。」

ミハエルは照れ隠しに話題を変える。

「それで、タロン方面は?」

「快勝です。タロン一帯は我が方の掌中に!」

「そうか……タロンは我々のものに。つまりコロンゴは、それを失ったわけだ。」

ミハエルの胸中に、勝利の喜びと戦火の広がりへの不安が交錯した。



――暗転。


?B「先ずは上々。これで両国はACE開発で国力の削り合いになる。」

?A「しばらくはこちらが優勢に進めさせてもらうが、構わんのか?」

?B「問題ない。国内感情を逆撫ですれば、総力戦体制へと移行できる。そうなれば形勢は逆転する。」

?C「ゲームとして楽しむのは勝手だが、本来の目的を忘れるなよ。」

?A「無論だ。だが政治と軍を操る苦労、貴様ら“本国組”には分かるまい。」

?B「前大戦から潜伏を続ける身にもなってほしいものだ。」

?C「貴様ら、国家への忠誠を忘れたわけではあるまいな?」

?A「愚問だ。そのために、我々は動いている。」

?B「そう――すべては、“総統”のために。」


両国の開戦、ACE同士の激突。

それらすべてが、闇の存在の掌の上で進んでいるのかもしれない――。

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