第3話「その名はACE」
――基地内・テレビ前。
食堂に隊員たちが集まり、ニュースが流れている。
『エウロパ政府報道官によりますと、墜落現場周辺で一時的に原因不明の電波障害が確認されました。現在、目撃者はおらず捜索が続けられています――』
『一方、コロンゴでは憲法の緊急措置に基づき、副大統領アレックス・ターナー氏が新たに大統領に就任。早期に調査団を派遣し、エウロパと協力してハーリング大統領の捜索に全力を尽くすと声明を出しました――』
隊員たちは顔を見合わせ、ほっと胸をなで下ろす。
「両国で協力するなら、戦争にはならんだろ」
「大統領も……きっと無事さ」
安堵の声が漏れる。
その隣で――。
「……なあレイ。実はさ、その……チケット、オリビア・ハレンじゃなくて、ヘレン・スチュアートって歌手だったんだ」
「……は?」
レイが固まった。
「おいキース!俺がどんだけ楽しみにしてたと思ってんだ!」
「ま、まあ落ち着けって。名前が似てただけだよ!」
「似てねぇよ!ったくミッション大失敗じゃねーかよぉ」
だが次の瞬間、キースが差し出した封筒にレイの目が止まる。
「……これ、三枚あるじゃねぇか」
「まあ、どうせならって……」
「ミリィも来るか?」
思わぬ誘いに、ミリィはスプーンを握ったまま固まり――やがて信じられない笑顔を浮かべる。
「……! わ、私が……? 本当に……?」
「お、おい……なんだその顔……」
「え、ええっ……!?」
普段冷静な彼女の反応に、キースとレイは目を丸くした。
「そーいえば、ハレンのチケットも妙に詳しかったな。ミリィって意外とミーハー?」
図星を言われて顔を真っ赤にするミリィである。
そんな空気を切り裂く怒号が飛ぶ。
「バカども!遊んでる場合か!」
ボンド中佐が腕を組んで立っていた。
「次は実弾訓練だ。命がけでやる覚悟を見せろ!」
――レッドクリーク試験場。
砲火と砂煙の中、ACEたちが動く。
キースが引き金を引く。
だが――反動が脳に届かない。
振動も、重みも、薄い。
ただ照準が動き、標的が次々と倒れていく。
「……まるでゲームだな。これじゃ現実感が無さすぎる」
キースが眉をひそめる。
「はっ、最高だろ。余計な反動がない分、狙撃に全集中できる」
レイが笑いながら引き金を引き、ドローンを正確に撃ち抜く。
だがミリィは口を閉ざし、標的が炎を上げるのを見つめていた。
「……これがもし、人間相手だったら……」
その声には迷いが混じっていた。
――訓練後、ブリーフィングルにて。
ボンド中佐が、いつもと違う重い声音で口を開いた。
「諸君、薄々気付いているだろうが、諸君らが乗っているのは兵器である。“Advanced Combat Engine”、通称ACEと呼ばれている。」
「俺がコイツに疑惑を持っていたのは、ACE構想そのものがエウロパから秘密裏に得たもので、我が国では長らく本腰を入れていなかったからだ。」
「だが……諸君らのデータを本営へ送ったら血相を変えてな。今じゃ工場は右往左往の急産体勢だ。そこに今回の事件だ、尻に火がついて大炎上ってやつだ。それだけ諸君らは期待されている事を自覚しろ。」
「尚、次はレイクヴィクトリア基地で同様のテストを行っているチームと模擬戦を行う。負けるなよ。」
重苦しい空気だけを残し、言葉少なに部屋を後にした。
沈黙が流れる。ミリィが小さく呟く。
「……もし戦争になったら、私たち勝てません」
キースが答えを探すより先に、レイが笑って肩をすくめた。
「エウロパさんのACEがどんなもんか知らんが、コイツは乗り手の実力がモロに出るんだ。俺たちゃ負けねーよ。それよか“ACE”って響きが最高だなぁ!」
だがキースは二人を見つめながら、心の奥で揺れていた。
(大統領……見つかってくれ。でなきゃ、この国も……俺たちも……)
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