第2話「赤き訓練場に影さすもの」

――レッドクリーク試験場。

砂埃を巻き上げ、模擬市街地に設置されたターゲットが次々と破壊されていく。


「ターゲット残り三つ、タイムリミット30秒!」

管制官の声が響く。


キースの機体が瓦礫を飛び越え、滑るように着地する。

「ロックオン、射撃!」

腕部マウントのライフルが火を噴き、ターゲットを正確に撃ち抜いた。


続いてレイの狙撃が遠距離から炸裂、最後の標的を吹き飛ばす。

「よっしゃー!俺の勝ちだな!」

「くそっ、やっぱり射撃だけはお前の勝ちだな。」

「“だけ”は余計だ、“だけ”は!」


「二人とも、まだ残ってますよ!」

二人のやり取りを後方で聞きながら、ミリィがドローンを一刀両断。

「……終了。クリアです。」

レイが口笛を吹く。

「ほらな、残りはミリィに華を持たせてやったよ。」


テスト結果を確認しながらキースがまとめる。

「レイは狙撃、ミリィは近接。チームとしては申し分ないな。」


だがレイがすかさず切り込む。

「そうやってうやむやにして、賭けのこと忘れる気だろ?」

「……はぁ。ったく、わかったよ。オリビア・ハレンのチケットだったな。」


その名を聞いた瞬間、ミリィの目がきらりと光る。

「中尉、あれを甘く見ないでください。徹夜で並んでも手に入らないんですから。」

「……マジで?おいおい、俺の休暇が死んだじゃねえか。」


レイが勝ち誇った笑みを浮かべる。

「では、健闘を祈る、キース・ウォレン中尉(笑)」


楽しげにふざけ合う三人のもとに、ボンド中佐の雷が落ちる。

「お前ら!いい加減にしろ。ガキのおもちゃ遊びじゃないんだ、何回言わせる!」

だが管制室のモニターはざわついていた。

「タイム、規定値を大幅クリア……これ、もう実戦レベルだぞ」

「こいつが投入されたら、戦場がひっくり返るぞ!」


スコアを見下ろしながら、ボンドは腕を組んで吐き捨てるように言った。

「ちっ……確かに性能は認めざるを得んがな。ま、いざとなったら上手く使ってやるよ。」


――訓練終了後、格納庫。


レイが機体から飛び降り、伸びをしながら言う。

「なぁキース、これ……もう完全に戦争用じゃねぇか?的もドローンも、どう見ても“敵兵”想定だろ。」

ミリィもパイロットスーツ姿のまま真剣な顔になる。

「今日のプログラム、明らかに殺傷訓練ですよ。……これ、本当に防衛用なんですか?」


キースは一瞬言葉に詰まり、工具を置いて答える。

「……俺たちの仕事は国民を守ることだ。人を傷つけないために俺たちが動く。……そうだろ?」


その時、格納庫のシャッターがガラリと開き、ボビー中佐が現れた。

「明日の訓練は実弾演習だ。ビビるなら今のうちに降りろ。」

「ちょっと待って下さい!まだ安全確認は――」

「戦争は待っちゃくれん!」

「戦争?!」

吐き捨てるように言い残し、中佐は去っていく。

三人は無言で顔を見合わせる。


――夜。基地食堂。

テレビの画面に“緊急速報”の赤文字が踊る。


『本日午後、ジョナサン・ハーリング大統領の乗った政府専用機がエウロパ領空付近で墜落しました――』


画面には炎上する機体の残骸。

現場中継の記者が声を震わせる。

『……原因は機体トラブルとみられ、救助活動が続けられていますが、生存者は確認されていません――』


ミリィがスプーンを落とす音が響く。

「うそ……だって、軍縮会談が……」

レイは黙り込んだまま画面を見つめる。

キースはテーブルの下で拳を握りしめた。


食堂内がざわつく中、別の隊員が呟いた。

「これで首脳会談は中止だな……」


遠くで非常ベルが鳴り始める。

ボビー中佐の声がスピーカーから響いた。

「全員、明日の演習準備を急げ!状況は待っちゃくれんぞ!」


三人は顔を見合わせたまま、言葉を失っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る