第2話ー初めてのご対面
今回は私がなんとかキャサリンと攻略キャラを仲良くさせようと試行錯誤するお話です。なんか思い通りにいかなかったんですけど、優しい目で見てあげてください。
* * *
多分倒れて起きたばかりの人がバリバリ動いてるからだけど、使用人たちに不思議な視線を向けられる。うう、もともと陰で動く性格だったからか、あまりジロジロ見られると落ち着かない。でも、そんなこと、今は気にしている場合じゃない。
私は、過去のストーリーからお母さんが亡くなるまであと何日かを計算してみた。
あと半月。正確に言うと十六日だ。
思ったよりも期間があることに驚いた。あと半月か、計画よりも進展するかもしれない。あ、でも、あと十六日って考えると、二週間と少ししかない。
いったん今日は話し方や動作などを自然にするために、練習する日にしよう。
計画実行は明日から。いきなり嫌っている奴が突撃してきたら、そりゃぁ驚くし怒るに決まってる。だから、自然に口実を作るためのリハーサル日が今日。練習するかしないかだったら絶対した方がいいから、頑張ります!
翌日
朝起きて、使用人に身だしなみを十分良くしてもらう。そのあとに家族を朝食をとった。
「お母さま、今日もいないね」
イアンが言う。
あ、そういえば紹介してなかった。イアンっていうのは、私の弟の呼び名。イアンの正式名称はイアン・オブ・クリス。ついこないだ五歳の誕生日を迎えた、私の可愛い可愛いそして愛しい弟である。キュルンとしたぱっちりお目目に、ちょこんとした鼻。そしてご飯を頑張って口いっぱい詰め込んでリスみたいになるお口。もう可愛い以外の何⁉ってくらい可愛い。お母さんの死を待っている私が言うのも申し訳ないけど、お母さんのことが大好きで、お母さんがいないとすぐにわかるくらいシュンとしてしまう。
「お母さまは今頑張って元気になっているんだ。もう少し待ってあげよう」
私の父親、ウィリアム・オブ・クリスがイアンをなだめるような口調で話す。
イアンもお母さんが闘病中ということを知っているからか、案外すぐに首を縦に振った。
私のお母さん、マーガレット・オブ・クリスは、今難病を患っていて、ずっと寝室で寝たっきり。ご飯も少ししか食べないから、どんどん痩せて、どんどん顔色が悪くなっていく。私たち子供には言っていないけど、お母さんは余命宣告も受けている。宣告されたのが今から半月前。そのときに「持ってあと一か月半」と言われている。私たち子供はそのことを知らないでいつか治ると信じている、という設定だ。私は知ってるけども。お父さん、ごめんなさい。
私はこの重々しい空気から逃れたくて、すぐに朝食を済ませ、みんなの屋敷を訪問する準備をした。準備万端になって、馬車で出発。周りの木々が微妙に揺れていて、心地よい風を生んでいる。
まず最初にむかうのは、こないだ紹介したリアム・デ・ライリー、通称リアムの屋敷だ。今日は城下町でお祭りをしているから、偵察程度にと、自然に誘えた。リアムもちょうど休憩したかったらしく、即OKしてくれた。
キャサリンの屋敷は、一番最後に回る。キャサリンがリアムにべったりだと私が気まずいからね。
次に回るのは、マシュー・パワー・ガードナーの屋敷、というか、家。名前にパワーってつくからめちゃめちゃ強いと思うでしょ?めちゃくちゃ強いよ。
マシューは王国の騎士団に入っていて、まだ日が浅いのに素晴らしい功績を何個も残している、まさに天才。おまけに頭もよくて、顔も完璧。彼を見たら町中の女性が騒ぐらしい。私は画面越しにしか見たことないから、少し楽しみである。
そんなことを考えているうちに、マシューの家についた。マシューはちょうど庭で素振りをしていた。汗びっしょりだったが、キラキラした目で即OK。なんか、顔はきりっとしていてクールだけど、犬系男子って感じ。どちらかというとかっこいいよりはかわいいの方が合う。
さすがにびっしょりのままは行けないと、秒速で着替えてきた。
マシューも乗せて、残る迎えはあと一人。もう一人は町にいるから大丈夫。
最後に迎えに行くのが、ウィル・パット・ローランズ。
この人の家はすごくて、代々王国に大臣として仕えている。もちろんウィルも父親が隠居したら大臣になる。彼はマシューとは逆で、めっちゃ犬系みたいな顔してめちゃくちゃクールで冷徹。周りの女性からは「冷徹大臣」と呼ばれているらしい。まぁ、エマに対してはめっちゃ甘えるから、私からするとなんかあざとい的なイメージかな。
さて、三人とも集まったから、町に向かうとしますか……って、みんなめっちゃバチバチじゃん。そうだ、エマってみんなから求婚されてるんだっけ。忘れてた。
まあいいや、じゃあ最後の一人を紹介しちゃおうかな。最後に紹介するのは、レオ・バロン・イドリス。レオだ。レオは町のパン屋の跡取り息子。レオのパン屋はそこそこ人気で、町にいるにしては裕福な方だ。でも他の三人と比べたら財力も地位もない。そんなレオがなぜ攻略キャラに入っているかというと、レオはエマと幼馴染的な感じなのだ。
エマが初めて町の偵察に行ったとき、エマは素敵なパン屋を見つけた。そこがレオのパン屋だ。とてもいい匂いがするので、エマは気になってしょうがなかった。一緒に来ていた使用人は、それを見て「内緒ですよ」と予定にはないパン屋でパンを買ってくれた。そのときにレオが来て、「おいしいでしょ?お父さんのパン!」と尋ねてきたのだ。その会話をきっかけに、エマは毎週のようにレオのもとへ出かけていた。それで、昔からの付き合いってわけだ。
さて、レオの紹介も終わったことだし……本命行きますか。
馬車はキャサリンの屋敷へと向かう。私は心拍数が異常である。
私は落ち着きがなく汗がだらだら(多分)で、(何回も言うが)心拍数が異常。だって、ついに推しとのご対面。これが俗にいう握手会ってヤツですか。
* * *
あれ、おかしい、おかしいぞ。キャサリンの屋敷が一番遠いはずなのに、一番早く着いた気がするぞ。
私は止まらない汗をぬぐいながら、キャサリンの屋敷の玄関をノックした。
「はい」
と老人が玄関から顔をのぞかせた。多分屋敷の執事だろう。
事情を話すと、「少々お待ちください」と言って奥に行ってしまった。でも、しばらくすると執事は華やかなドレスを身にまとった女性を連れてきた。
あ、ああ、サラサラで長い金髪に、紫色のドレスが似合うつり上がった目。これは、この方はまさに、キャサリンだ………!うわぁ、本物⁉握手とサインもらってもよろしくて⁉って、そんなことしたら余計に引かれちゃうよ。
そして、私を見て不機嫌そうなキャサリンに「リアムたちもいる」と話すと、「仕方ないですわね」とOKしてくれた。
よし、これで全員揃った!じゃあ、しゅっぱーつ!
* * *
はい、今私は初めて推しをこの目で見れて、大興奮しています。どうか優しい目で見てあげてください。
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