ヒロインに転生しましたが、推し(悪役令嬢)のために悪役になります!

かふぇらて

第1話ーここって……

こんにちは、私の名前は鈴木美香。自分でもげんなりするほど気弱なOLです。

でも、ある日、私は腰が抜けるほど不可解な出来事に遭遇しました。

今から少し、その時の様子を話します。


* * *


残業帰り、ぐったりして家に帰った。

定時からもう何時間も過ぎている。残業代は上がらないのに、何時間も会社に残ってほぼ無理やり押し付けられた仕事をこなしていく。

周りに相談しても、「辞めなよ、そんな会社」としか言われなくて、その方法を相談しても、話をかわされる。親に相談したいところだけど、数年前に他界していて、もう話すことはできない。


「こんな絶望的な状況、どうやってやり過ごせばいいか……」


この状態に陥った人は、誰でもそう考えるだろう。

そして、何もいいアイデアが浮かんでこないのだ。

でも、私には、こんな絶望的なときでも、幸せを感じる方法がある。それは、


「推し」である。


推しを崇めることで、日々のストレスも忘れて癒されまくることができるのだ。


私の推しは、キャサリン・オブ・ステュアート、通称キャサリンという令嬢。

ヒロインや元婚約者に嫉妬しながらも、その気持ちを隠して、静かに、そして華麗に立ち去るのだ。私はそんな悲劇の令嬢、キャサリンに心打たれて、今や立派なオタクに成長した。


キャサリンが出てくるのは、「アカデミア・ラブストーリー」という恋愛ゲーム。

ヒロインの視点で、様々な攻略対象(超超超イケメン)と話し、最終的にはその一人と結ばれる、という、恋愛ゲームでは定番の内容だ。その中で‶悪役″令嬢として登場するのが、キャサリンである。


家に帰ると、いつものようにグッズだらけのほぼ祭壇と言っていい机に座り、


「ただいまぁ~」


と推しに挨拶をする。それから晩ご飯を適当に食べて、推しに「おやすみ」を言い、推しの自作抱き枕を抱いて寝る。


これが私のルーティーンなのだ。会社は地獄だけど、家に帰るとこんな楽園が待っていると思うと、胸が弾む。


そんなことを考えているうちに、私は夢の世界に入った。


今日見た夢は、なんとも不思議な夢だった。


何もない真っ白なところで目が覚め、上から羽が生えて頭の上に金色の光り輝く輪を付けた神々しい人が降りてきて、「あなたは死にました」というのだ。


嘘だと反論しても、その人は寝ているであろう私の様子を見せてくる。


そのとき私の目に映ったのは、血を吐いて呼吸をしている様子もない、私自身であった。


まさか、本当に死んだの?


そんな考えが頭に浮かんだが、「これは夢だろう」という理性に押しつぶされて、死んだという選択肢は私の頭から消えた。そして、混乱している私の前で、しばらく黙っていた天使のような人が、


「本当に、あなたは死にました。次の日の朝になれば、異変に気付いた会社の人あたりが確認しに来るでしょう。話が変わりますが、あなたには今、二つの選択肢があります。」


二つの選択肢?それは、本当にいいものなのだろうか。私にとって、利があるものなのだろうか。会社のせいてすっかり人間不信になった今、そう簡単に人を信じることはできない。


「一つは、ここ、『天界』に残って、天使として暮らす。もう一つは、あなたが今までいた世界とはまた別の、『異世界』に転生するかです」


転生、か。私が今までいた世界がどこでも酷なのであれば、いっそ、転生して人生をやりなおしたい。


そう思っていると、私が口にするまでもなく、


「わかりました。では、あなたの転生先は……おっと、いけません。転生先を教えてしまっては、なんの面白味もありませんよね。それでは、行ってらっしゃい!」


天使らしき人が指をパチッと鳴らすと、私の視界は光に包まれた。


* * *


ここまでが、今までいた世界での記憶でした。この後、私はあまりの状況にパニックになってしまい、ちょっと変な行動もするかもです。


* * *


目を覚ますと、そこは見たことがないようなきらびやかな部屋だった。

私は困惑しながらも、ふっかふかのベッドから降りて、豪華な両開きのドアを開けた。そこは、赤いカーペットが敷かれた、ながーい廊下だった。


廊下の端っこに男性がいるけど、なぁんか見たことあるなぁ。


そんな見たことある男性は、こちらをチラッと見ると、すぐに目をそらしたが、もう一度二度見してきて、驚いたような動作をした後、奥に人がいるらしく、その人に大声で声をかけ、二人でこちらへダッシュしてきた。


近づいてくるにつれ、見慣れた顔はどんどんはっきり見えてきた。

男性は、「アカデミア・ラブストーリー」に出てくる攻略対象の一人、リアム・デ・ライリーと瓜二つ。私は自分の目を疑った。だって、ゲームの中に転生なんて、漫画でしか読んだことがないんだもの。


でも、男性は、こちらに走ってくるなり、


「エマ、目が覚めたのか⁉」


と言ってきた。


エ、エマ?エマって、リアムがヒロインにつけた愛称じゃない。


私は驚いて、


「あの、誰、ですか?」


と男性に尋ねた。男性は「え?」という顔をして、


「エマ、私のことを、忘れてしまったのか?」


私は仕方ない、と思い、コクっと首を縦に振った。男性はショックを顔でできる限り

表して、私にいろいろと教えてくれた。


彼はやはりリアム・デ・ライリーだった。そして、私がエマ・オブ・クリスであることを教えてくれた。エマ・オブ・クリス、通称エマとは、「アカデミア・ラブストーリー」のヒロインである。そう、私は、あの地獄のような状況で過労死し、エマに転生してしまったのだ。


リアムが言うには、私、エマは聖女の才能があると見られ、努力をしすぎた結果、魔力を使いすぎて倒れてしまったそう。それから高熱にうなされ、五日ほど目を覚まさなかったらしい。


そういえば、こんなシーン、ストーリーにあったな。五日は長いからめっちゃ省略されて三秒で終わったけど。


このままストーリーが進めば、キャサリンは処刑or追放エンド。そんな、自分のせいで推しが死ぬとか、耐えられないんですけど。


私はそう気が付いて、リアムを放って自室に籠った。


どうすればキャサリンに敵視されないで済むか、どうすればキャサリンを幸せにしてあげられるか。


そんなことばかり考えて、自室にあったノートにいろいろと記憶に残っているものを書いてみた。


この後のストーリーを書いて、キャサリンが処刑or追放されるまであと何日あるか。

残された時間を使ってどうやってみんなの視線をキャサリンに向けられるか。整理すると少し気持ちが落ち着いた。


確かエマが倒れたのが物語の中盤に差し掛かったばかりのころ。あのゲームは一年くらいの長さだったから、キャサリンが罰せられるまであと二百日ほどある。


キャサリンが罰せられた理由は、最後らへんに嫉妬に燃えすぎて私に毒を盛った、だったっけな。てことは、私が毒を飲まなければいいのでは?いや、でもそれだと根本的な解決にはならない。うーん、どうやったらキャサリンに嫉妬されなくて済むかな?


あ、そうだ。キャサリンは悪役令嬢だけど、実際に誰かを殺したり(毒も未遂に終わったし)、裏社会を牛耳っているわけでもない。それに、攻略キャラ達はエマが嫌がらせをたまにされるから、キャサリンを白い目で見るんだ。


だったら、まずはキャサリンと仲良くなって、攻略キャラ達とキャサリンと私で一緒にいて、キャサリンに親近感を沸かせていいイメージを持たせるんだ。


あと、確かもうすぐエマのお母さんが病気で亡くなるんだよね。だったらそれを理由に性格が悪くなった、とでもしておけば不自然じゃなく攻略キャラ達に嫌われることができる!それで攻略キャラたちは残されたキャサリンを大事にして、自然と恋に落ちる、みたいな感じでいけば、キャサリンを幸せにできる!


よ~し、じゃあまずは、ちょっと言い方悪いけど、お母さんが亡くなるまでの間、キャサリンたちを仲良くさせよう!


* * *


こんな感じで、私はキャサリンたちを仲良くさせるために試行錯誤していきます。

計画は結構順調に進みました。


* * *

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