第2話 喧騒の王

ネオンが眩しく瞬く夜、歓楽街の中心にひときわ豪奢な建物がそびえ立っていた。

 そこはカジノであり、酒場であり、同時にジャスティスの王国だった。


 ジャスティス。

 人はそう呼ぶ。

 派手に笑い、豪快に酒をあおり、そして迷いなく引き金を引く男。

 その姿は恐怖であり、同時に狂気的な魅力に満ちていた。


 ホールではルーレットが回り、歓声と悲鳴が入り混じる。

 札束が飛び交い、女たちが笑い、銃を抱えた男たちが見張っている。

 その中心に座るのがジャスティスだった。


「はははは! もっと賭けろ、もっとだ! ここで震えてどうする!」


 テーブルに札束を投げつけ、隣にいた若い部下の肩を豪快に叩く。

 その一撃だけで、男は息を詰め、顔をひきつらせた。

 だが笑顔を作らねばならない――それがジャスティスのもとに仕えるということだ。


 突然、ホールに一発の銃声が響いた。

 悲鳴が上がり、場が凍りつく。

 撃たれたのは、裏切りの噂が流れていた男だった。

 額から血を流し、テーブルに突っ伏す。


 ジャスティスは銃を持つ手を軽く振り払うように下ろし、豪快に笑った。

「裏切り者は要らん! 見ろ、これが俺の正義だ!」


 拍手と歓声がわき起こる。

 恐怖の裏返しであり、同時に酔いしれた熱狂でもあった。


 ジャスティスはその場を支配していた。

 暴力で。

 カリスマで。

 そして恐怖と喧騒で。


 部下の一人が小声で耳打ちする。

「ボス……資金の流れに妙な乱れがあります。カジノの収益が、少しずつ消えて――」


 その言葉を聞き、ジャスティスは一瞬だけ目を細めた。

 次の瞬間には、また大声で笑い飛ばす。


「金ならまだ山ほどある! 俺の城は揺るがん!」


 だが、豪快な笑みの奥で、わずかな不安が走ったことを誰も知らない。


 ロイの影が、すでにジャスティスの足元を侵食し始めていたのだ。

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