第3話 イイコトしようぜ?
「それでね、アンタの前世のお姫様に逆らえなかった人々は、奇跡の起こる夜に集まって、祈ったの。姫が来世で十五の美しいさかりに死にますようにって。ちなみに、前世では、誰からも憎まれながらも、孤独に長生きして八十五で死んだんだけどね」
話を聞いているシスカは、暗い顔でうつむている。
記憶もぜんぜんないし、自分とはぜんぜん関係のないヒトだけど、それだけ大勢の人が、呪いをかけるために集まっている光景を想像すると、ぞっとしたのだ。
気が強いのに小心者のシスカは、実は、嫌われることがいちばん怖い。
マリヤル・ハデスは、ぽんぽんとシスカの肩をたたいて、顔を上げさせた。
「アンタ自身のことじゃないから、そんな深刻な顔しないの。せっかく、呪いを回避する方法教えてあげに来たんだから」
「え……」
やっぱりあるのだ、早死にしないですむ方法が。
「どうすればいいの?」
「ふふふ。簡単なことよ。前世の悪行を帳消しにするくらい、善行を積めばいいの」
「ぜんこう……?」
「そ、イイこと、イイこと」
マリヤル・ハデスは、黒と白に塗り分けた長い爪でシスカのほおをつつき、歌うように言う。死に神のくせに、これから死ぬ運命の人間に妙に優しい。
「泣いても笑っても、期間は一年しかないわけだから、できるだけ楽しんで、善行に励むんだね。やり方はアンタに任せるから、せいぜい頭を使うように」
「分かった……」
シスカは、うなずいた。
前世の自分は、毎日のように罪もない人々を檻に入れたり、ごうもんしたりして苦しめていたそうだから、いったいどれほどのことをすれば帳消しになるのか、けんとうもつかない。それでも、やってみるしかないのだ。
(なにもしないで、死ぬの待ってるのなんてやだもん)
ぜったいに、幸せな十五歳になってやるって決めてるんだから!
「よしよし、目に輝きが戻ってきたね。あたしも、ちょっとだけお手伝いさせてもらうか」
マリヤル・ハデスは上機嫌でうなずいて、髪にからんでいるヘビの口に手を突っ込み、平たいケースを取り出した。
「だいじなケータイを壊してしまった、おわびに」
「なにこれ……」
渡されたのは、お弁当といっしょに携帯するような、カトラリーセットだった。
光り輝く銀色のケースに、金色の柄の、ナイフ・フォーク・スプーン・おはしが入っている。
「天使の遺品だよ。死ぬ前に少しだけ、恋人に会う時間作ってあげたら、感謝されちゃって。試したことないから本当だか分からないけど、キセキを使う力が宿ってるんだってさ」
「キセキを、使う?」
「そう。これをかざして、好きな呪文を唱えると、その瞬間に世界のどこかで起こる予定のキセキが、呪文の主のために使われるんだって」
ただし、想いが強くないと、なにも起こらない可能性もあるらしい。
「へぇ……」
ただの、ちょっときれいな食器にしか見えないけれど、すごい力がある物なのだ。
「むやみやたらにやるなよ。やりすぎると、魂が消耗するらしいから」
さっそく試そうとしたシスカに、死に神が忠告する。
「分かった。でも、ちょっとだけなら」
好奇心を抑えられないシスカは、カトラリーセットの中からスプーンを取り出し、掲げてみる。
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