目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい/リュート

<甘え上手の酒飲みエルフ>



「はぁ……」


 俺は盛大に溜め息を吐いた。

 煌びやかな照明、豪華な調度、それに華やかなドレス、ドレス、ドレス。あと盛装の男。まぁこれはどうでもいい。その他にはいかにも格調が高そうな音楽と、テーブル上に並んだり従者の皆様が配っていたりする高そうな酒。それと恐らくお高いオーガニック料理の数々。

 紛うことなきパーティーである。

 今、俺は寄港したコロニーで貴族主催のパーティーに参加していた。パーティーのお題目は覚えていない。興味が無かったので。

 何故俺が招待されたのかというと、俺が帝国より賜っている名誉子爵という爵位はどちらかと言えば貴族でも上級の方に属する爵位だったからだ。パーティーの主催者はそんな俺がコロニーに寄港しているのに招待もしないのは無礼にあたると考えたようで、とても丁寧な文面の招待状を俺に送ってくれた。

 正直言ってありがた迷惑なのだが、その招待状の中身が問題だった。大変に丁寧でこちらを気遣ってくれている内容ではあったのだが、気遣いの度合いが巨大過ぎて下手に参加を断ると逆に無礼になってしまうようなものだったのだ。

 そんな呪いじみた招待状を受け取ってしまったのが運の尽き。俺はこうして煌びやかなパーティーに参加することになってしまいましたとさ。めでたくねぇ。


「でっかい溜め息ねぇ」

「溜め息も出る。こういう行事とは極力無縁でいたかったんだぞ、俺は」


 呆れたような声で俺の溜め息について言及するエルマへと視線を向ける。若葉のように爽やかな緑色を基調としたドレスを着たエルマの艶姿にもう一度溜め息が出る。違う意味で。


「人を見て溜め息を吐くとは良い度胸ね?」

「この溜め息は見惚れた溜め息だ。つくづく美人だよな、エルマは」

「いきなり褒めるじゃない」

「こういうのは素直に言うことにしているんだ。言葉は口に出さないと意味が無いからな」

「沈黙は金とも言うけどね」

「金は使ってこそだ。胸の奥底に死蔵した金なんて無いのと変わらん」


 俺がそう言うと、エルマは「あっそ」と素っ気ない言葉を吐いて俺から視線を外してそっぽを向いた。恥ずかしがってるな、これは。こういうところが可愛いよな、エルマは。


「ついてきてもらって良かったよ、本当に。俺一人じゃ途方に暮れてるところだ」

「ヒロは別に口下手ってわけでもないんだし、意外と大丈夫そうだけどね?」

「普通の会話ならな。貴族語はわからん、マジで」


 一見普通の会話のようで、その裏に色々な含意があるとかもうね。京言葉かな? 普通の会話だと思ってニコニコと聞いていたら、実は滅茶苦茶馬鹿にされていたとか洒落にならん。別にそれで貴族的な意味で俺の評判に傷がつくのは構わないといえば構わないんだが、傭兵ギルドのプラチナランカーとしてはあまりよろしくない。られたら殺す、という鎌倉武士マインドで臨めというわけでもないだろうが、あまり舐められると傭兵ギルドの看板に傷がつくのだ。


「まぁそこはね。私がフォローするから任せておきなさい」


 そう言ってエルマが胸を張る。とても頼もしい。実際、俺に呪いの招待状をくれた主催者に挨拶する時にはエルマが大いにフォローしてくれた。貴族だ名誉子爵だと言ってもただの武辺者というか正真正銘の傭兵なので、場を乱さず端っこで大人しくしてますね、というようなことをやんわりと貴族言葉で伝えることに成功したわけだな。

 あちらとしても招待したとはいえ外様の俺にデカい顔をされると困るというわけで、俺達の利害は一致したわけだ。なら呼ぶなよとも思うのだが、エルマが言うには貴族的には居るのがわかっているのに招待すらしないというのは他の貴族からの攻撃材料にもなりかねないらしい。

 貴族社会ってめんどくせぇな!


「本当に頼りにしてる。今日のところはあとはのんびりしてるだけで終わりそうだけどな」


 確かこのパーティーの主催は星系総督を務めている男爵だった筈だ。お題目は忘れたが、別派閥の近隣貴族まで招待しての大層なパーティーで、招待されているのは貴族だけでなく有力企業の幹部だったり、近隣星系で名の知れた芸能人であったりする。つまり、貴族だけでなく平民もそれなりにこの場にはいる。というか、平民の方が遥かに多い。

 ということは、今の俺のように盛装の上、帯剣までしているザ・貴族といった人物にわざわざ話しかけてくるような奇特な人はあまりいないというわけだ。平民にとって貴族はおっかない存在だからな。しかも最近の俺は一般人から見るとかなり怖い雰囲気を纏っているらしい。ここのところ傭兵ギルドに顔を出すと、初見の受付嬢さんにあからさまに怖がられるんだよな。

 見た目はそんなに厳つくないと思うんだが。


「ヒロも最近は一端の傭兵らしい風格がついてきたわよね」

「良いことなんだか悪いことなんだか。カタギのお嬢さんどころかお兄さんやおじさんにまでビビられるようになってきて若干居た堪れない時があるんだよな」

「舐められるより良いでしょ。傭兵なんて恐れられてなんぼよ」

「はい出た、エルマの荒んだ傭兵観。俺の方向性はクリーンでリッチでセレブリティなやつだから」

「表面だけ取り繕ってもねぇ? ヒロだって高笑いしながら宙賊をぶっ飛ばして、場合によっては直接宙賊艦に乗り込んで切った張ったするじゃない。同じ穴の狢でしょ。第一、クリーンでリッチでセレブリティな感じを目指すならこういうパーティーこそアンタの望んだものじゃないの?」


 そう言ってエルマは笑いながら肩を竦めて金色の液体が入ったグラスを傾ける。


「……クリーンはともかく、リッチでセレブリティなのは諦めようかな」

「諦めが早いわねぇ。まぁアンタの言うリッチでセレブリティっていうのは女の子を沢山侍らせてガハハって笑うタイプの俗なやつよね」

「結果的にそうなっているだけだ。俺は懐の深い男だからな」

「物は言いようねぇ……」


 ジト目を向けてくるエルマに肩を竦めて返し、何かよくわからない具が載せられているカナッペのようなものを口に運ぶ。濃厚な旨味が口の中に広がるが、大量に食うものではないな、これは。

 なんだろう? レバーパテか何かかな? 何せ恒星間をバンバン航行している世界だから、こういう珍味の類は何をどう加工した物なのか全く想像がつかないんだよな。


「はぁ、おいし。でもセーブしなきゃよね。船まで帰らなきゃならないし」

「別に好きなだけ飲んでも良いぞ? このホテルに部屋取っといたから」


 パーティーに行くのが決まった時に美味しいお酒が出るだろうから楽しみだって言ってたのを聞いたからな。メイに言って会場となるこのホテルに部屋を取っておくように頼んでおいたんだ。


「ただ、医療ポッドまでは無いからギリギリ限界は見極めて飲んでくれよ」

「……ん、わかったわ」


 そう言ってエルマは少しだけ考えるような間を置いてから、手に持ったグラスの中身を一気に飲み干した。こいつ、飲めるとわかった途端にペースを上げやがった。


「酔っちゃった。これ以上飲めない。運んで」


 と思ったら、そんなことを言ってエルマが俺に身を寄せてきた。腕に抱きついて体重を預けてくる。絶対に嘘だ。こんな量でエルマが酔っ払うわけがない。


「酔っ払っちゃったの。運んで」


 エルマが顔を赤くして少し拗ねたような表情を見せる。

 あー? なるほどね? オーケー、完全に理解した。


「酔っ払っちゃったなら仕方ないな。部屋で休もうか」


 近くで配膳をしていたメイドさんを掴まえ、連れが酔っ払ってしまったので退席させて貰う旨を主催者に伝えてほしいとお願いしてパーティー会場を後にした。

 酔っ払っちゃったなら仕方ないよなぁ。ゆっくりお部屋で休まないと。ゆっくりな。

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