3
人払いをされ、完全に人の気配が消えたあと母上が口を開いた。
「春宮は、かの姫君が好きなのかしら?」
「え?」
「
俺しか子が居らぬ、母は嬉しそうに品物を眺め、私や父、晴明から聞いた人柄で選んでいるのだろう。
木にいてくれればいいと選んだのは、菊を模した髪飾り。
当日彼女が付けてくれることを願い、自身の色である
当日安倍邸に直接迎えに行った私は、着飾った彼女に目を奪われた。
凛とした彼女はどの姫君たちよりも美しく、気品に溢れていた。
“菊華“という名に驚いてはいるものの、素直にその名を受け取り牛車へと共に乗り込んだ。
途中体調が悪いことが見抜かれ、そのままひざの上に頭を強制的に乗せられると、目元を手で覆われた。
しばらくすると、体温の心地良さから久しぶりにゆっくり眠りについた。
やはり、彼女の傍は落ち着く。
私の后にしたいと、心から願った。
内裏に着いて護衛に着いていた人たちに声をかけられる。
それに伴い膝の上で熟睡をしていた春宮さまを起こす。
「宮さま、起きてください。内裏につきましたわ。」
よそ行きモードで声を掛ければ、閉じられていた瞼は開き、状況を把握しているようだ。
「目が覚めましたか?お付きの方からお声が掛かりましたので、車から降りませんと。」
「あ、あぁすまない。菊華。」
「いいえ。少しは休めましたか?」
「あぁ。ありがとう。」
体を起こし先に車を降りた春宮さまに続いて、顔を隠しながら車を降りようとした所で、春宮さまから軽々と抱き上げられてしまった。
衣装含め結構な重量のはずなんだけどな。
なんてどうでもいいな事を考えながら、されるがままに大人しく流される。
廂まではそんなに距離はなかったが、他の公卿たちの目に止まってしまった。
目立ちたくなかったのに!
と内心思いながらも後ろを付いてきた、雪華に視線で訴えてみたがどちらにしても目立つと言われてしまった。
視線の先にいるのは、雪華だ。と現実逃避をしつつ下へ降ろしてもらった私は、春宮さまに手を引かれる形で、3日目が控えている殿舎まで案内をされた。
新嘗祭は紫宸殿で行われる。
その上座に帝と連れ添うように、座っていらっしゃるのが春宮さまのお母様である皇后さまだろう。
「この度はお招きいただきましてありがとうございます。主上のお召しにより参内いたしました。」
「見違えるものだな。今日はゆっくりしていくといい。」
「はい。ありがとうございます。皇后さまにおかれましても、素敵な贈り物などお気遣いありがとうございます。」
「今日は会えるのを楽しみにしておりました。気に入っていただけたようで、私も嬉しいわ。」
にっこり笑って、最敬礼をすると再び春宮さまに連れられて舞を見る席まで移動した。
与えられた場所は、東宮妃。つまり本来なら春宮さまの北の方が座る場所に座らされた。
先ほどから感じる視線は、いい迷惑である。
御簾によって遮られているものの、女房たちや他の側室の方々、公家の姫君たちからの視線が痛い。
これなら、本当に時平として参内したかった。
そうすれば、宮様の斜め後ろに居ても全く問題なかったはずだ。
内心ため息は吐きつつも、舞が始まるのを今か今かと時平はワクワクしながら舞台を眺めていた。
特等席ということで、ある程度は我慢しようと言うことにした。
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