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叫び声に振り向くと局の中から女房が広廂に飛び出してきた。


「白虎!!」

「はいな!!」


廂の下に白虎が背を向けて立つと、私は白虎めがけて一直線に走り、組まれた手に足をかけるとグッと構えていた両手に乗り上へと投げてくれた。

そのまま広庇に着地をすると、靴を脱ぎ室内に入る。


「失礼!!」


中心にいたのは、泡を吹いて倒れている年若い女房だった。

彼女の体からは黒糸がつながっている。

おそらくへと繋がっているのだろう。


〈青にぃ、この糸をたどってくれる??〉

〈御意。〉


目の前の女房に視線を移す。

おそらく騙されていたのだろう。

術は戻らないとでも言われたか、バレないと言われたか。

どちらにしても梨壺および藤壺、梅壺の邪気の原因は彼女だ。


「ノーボウ アキャシャ キャラバヤ・・・・・・」


真言を紡ぎ出せば上坊から黒いもやが飛び出してきて完全に宿主から離れた。


『・・・・憎い!・・・・お前が・・・・・・春宮さまあの方の隣は私のものだ!!!』


低くこだまする声に皆が震え上がっている。

雪華は他に被害が及ばないように結界をしっかり張ってくれている。


「火球風情が、誰に喧嘩を売っている?」


仕上がった霊力を風の刃物に替え、放つ。

うまく外へ誘導できればいい。

少しずつ外へと近づくように移動していく。

グッと間合いを詰められ後ろに飛び退くと、庇にある手摺の上に着地をする。

黒いモヤはそのまま上空へ浮上した。


「白虎、春宮さまに付け!朱雀来い!一気に叩く!!」


私は2人に従う。

ああいうものの類は完全に焼き切った方がいい。


「オン!アビラウンケン バサラ ザドバン!神の神々炎よ、我が太刀と共に悪きものを滅せ!!」


韻を結び、蘇芳の浄化の炎を刀印にこめ対象に叩きつける。


『おのれ、おのれ!!小童ごときが!道連れじゃ!!』


そう言い勢いよく向かった先は春宮さまのところで、咄嗟に体が動き、そのまま間に滑り込ませ符で結界を張る。

相手の力と私の防御の符が相殺し風が吹き荒れ烏帽子を飛ばし、カマイタチのように直衣と肌を切り裂いた。

これには私も、怒りを通り越し呆れてしまったが、全力で神気を解き放ち、トドメの一撃で逃走していた黒い塊は断ち切った。


先ほどの風で髪が解けて非常に邪魔な状態だが、朱桜がかんざしを一本貸してくれたので、かんざしで髪の毛をまとめる。

再び梅壺の殿舎に上がり原因となっていた女房の様子を確認する。

顔色はまだ悪いが、呼吸は安定しているから、しばらく経たのでゆっくり休ませれば問題ないだろう。


「時平!」

「なんでしょう?春宮さま。」

「私にできることはないか?」

「陛下に梅壺の方々を別の建物に移動させてくださいって頼んでください。このままこの建物事態を清めた方がいいので。」

「分かった。その件に関しては父上に報告をする。いいか?私が戻るまで絶対に梅壺から動くなよ?いいな?」

「はぁ・・・?」


と曖昧な返事をしながら、目の前の女房に視線を戻す。

疑いの目で見られたが、なにもなければ動かない。これは本当だ。

さて、今の私ができることは、周りを見回しながら傷口を拭う。

直衣が血に染まるが気にしない。

袂に入れていた人形の紙で、この梅壺を片付けるための式を作り上げる。


「悪いが、片付けてくれるか?」


式に指示を出せば、荒れた室内の片付けを始める。

さて、いつまでもこの人をここに寝かせているわけにもいかないから移動させるか。

この時代の平均身長低くてよかった。

なんて考えながら、近くの女房に汚れてもいい布をもらうと、彼女を簡易的に包み上げる。


軽っ!子供みたい。


そんな感想を抱きながらも仕切りの中に簡易の寝床を作ってもらいひとまず寝かせる。



「あの、陰陽師さま朝霧は大丈夫なのでしょうか?」

「ん?あぁ、大丈夫ですよ。もう彼女を苦しめるものは居ませんから。一応目を覚ましたら医師に怪我などの状況を見せてください。」

「ありがとうございます。」


話しかけてきてくれた女房ににっこり笑ったところで、春宮さまが戻ってきた。

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