第45話 カナメだけずるい言うなや

翌日の昼下がり。

居住区のリビングで、ハルキは端末を手にしていたが、画面の文字は頭に入ってこなかった。

昨夜のことを思い出すたびに、胸の奥がざわつく。

「……あんなこと、人生で二度とないやろな」

小さく呟いたところで、背後から声が飛んできた。

「やっぱり考えてたんだ」

ミオがにやにや笑いながらソファに腰を下ろす。

「アオナとピナ、二人から同じ日に気持ちを伝えられるなんて、滅多にないことだよね」

「……そら、そうやろ。オレかて驚いたわ」

ハルキは端末を伏せ、肩をすくめる。

「で、どっちが先に言ったの? アオナ? ピナ?」

「……アオナや。勢いある子やからな」

「やっぱりね。ピナは落ち着いてるけど、最後にはちゃんと伝えたんでしょ?」

「……ああ。あの子らしい言い方やった」


そこへ、カナメがゆったりと現れる。

「まあまあ、ミオ。任谷さんをからかうのはほどほどに」

優雅に微笑みながら、彼女はテーブルに腰かける。

「だってさぁ」

ミオは肩をすくめる。

「カナメはもう“先に進んでる”んでしょ? ずるいよね」

「……は?」

ハルキは思わず固まった。

「え、な、なんの話や」

視線を泳がせるハルキに、ミオはにやりと笑う。

「昨日の双子の告白で分かったんだ。

みんな本気でハルくんを好きになってる。

でも、カナメだけは一歩先に踏み込んでる。……それって、ずるくない?」


「……ふふ。ずるい、ですか」

カナメは扇子を軽く開き、口元を隠して笑った。

「私はただ、任谷さんに誠実であろうとしただけですわ」

「でもさぁ、私たち護衛は立場的に遠慮してるのに、カナメだけ堂々と近づいて……」

ミオは頬を膨らませ、ハルキを指差す。

「ねぇハルくん、そう思わない?」

「オ、オレに振るなや!」

ハルキは慌てて両手を振る。

「そら……カナメは、なんちゅうか……堂々としてるし……」

「ほら、やっぱり!」

ミオが勝ち誇ったように笑う。

「ずるいんだよ、カナメは」


「任谷さん」

カナメがすっと立ち上がり、ハルキの隣に腰を下ろす。

「私はずるいのではなく、正直なだけですわ。

あなたを想う気持ちを隠さず、行動に移した。それだけのこと」

「……カナメは、ほんま強いな」

ハルキは視線を逸らしながらも、思わず笑みをこぼす。

「強いのではなく、素直なだけですわ」

カナメは柔らかく微笑んだ。

「ほら、やっぱり得してる」

ミオが茶化すように言い、リビングには笑い声が広がった。

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