第17話 未来の朝ごはん、三人で届けます

夜。居住区の照明が柔らかく落ち着いた色に切り替わる頃。

ハルキはリビングの中央に浮かぶ球体アキナに向かって声をかけた。

「アキナ、配信準備できとるか?」

「はい。ユニットリンクへの接続完了。リンク姉妹との同時配信モードに切り替えました」

「ほな、いくで。初コラボや」


画面が開く。視聴者数が瞬時に跳ね上がる。

「こんばんはー! アオナ=リンクです!」

「ピナ=リンクです。今日は特別ゲストをお迎えしています」


ハルキが笑いながら手を振る。

「どもども。任谷ハルキです。未来の朝ごはんについて語る回らしいです」


コメント欄が一気に賑わう。

《ハルキさんが出てる!》

《ほんとに話してる……!》

《夢みたいです!》

《リンク姉妹と並んでる!》

《声、やっぱり落ち着く……》


アオナが元気よく言う。

「じゃあ早速、ハルキさんの“ふわっ”な朝ごはん、聞かせてください!」


ハルキは笑いながら語り始める。

「オレが初めて食べた未来のトーストな、見た目は普通やねん。でも口に入れた瞬間、味が“浮く”んや。重さがない。なんか、空気みたいなパンやった」


ピナが補足する。

「五感同期型の味覚演出ですね。最近の朝食ユニットには標準搭載されています」


アオナが笑う。

「でも“空気みたいなパン”って表現、めっちゃ好き! ハルキさんの言葉って、なんか映像が浮かぶんだよね」


ハルキは照れながら言った。

「オレはただの感想やけどな。せやけど、こうして三人で話すと、なんかテンポええな」


ピナが静かに頷く。

「確かに。姉と私の掛け合いに、あなたの言葉が加わると、リズムが変わります。面白い変化です」


アオナが企画を進める。

「じゃあ次は、視聴者から“未来の朝ごはん”アイデアを募集してみよう! コメント欄、どんどん書いてね!」


コメントが次々と流れる。

《泡でできた目玉焼き》

《音で味が変わるスープ》

《寝ながら食べられるゼリー》

《朝ごはんが空から降ってくる》

《食べると天気が変わるパン》


ハルキが笑う。

「なんや、みんな想像力すごいな。オレ、寝ながらゼリーはちょっと試してみたいかも」


ピナが冷静に返す。

「それは既に実用化されています。睡眠中の栄養補給ユニットに搭載されています」


アオナが笑いながらまとめる。

「ハルキさんの反応、やっぱり新鮮! じゃあ、次回は“寝ながら朝ごはん”をテーマにしてもいいかもね」


配信は終盤に差し掛かる。

ハルキはふと、コメント欄の一言に目を留める。

《三人の声、すごく心地いい。ずっと聞いていたい》


ハルキは少しだけ黙ってから、穏やかに言った。

「……せやな。誰かと一緒にしゃべるって、ええもんやな。オレ、ひとりで話してたときより、ずっと楽しいわ」


アオナが笑顔で返す。

「私たちもだよ。ハルキさんが入ってくれて、配信が“広がった”感じがする」

ピナが静かに頷く。

「視聴者の反応も、私たち自身の感覚も、確かに変化しています。これは良い兆候です」


配信が終了すると、アキナが淡々と告げる。

「本日の配信視聴者数、過去最高記録を更新。コメント数、平均の2.3倍」


ハルキはソファに座り込み、天井を見上げた。

「……ほんまに、オレ、誰かの“朝”を楽しくできたんやな」


ミオがそっと声をかける。

「うん。あなたの“ふわっ”は、ちゃんと届いてたよ」


ハルキは笑った。

「ほな、次は“寝ながらゼリー”やな。オレ、寝言で感想言うかもしれんけど、よろしくな」

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