第10話:火入れと最初のスープ

翌日、俺たちは窯の前に集まっていた。

乾燥させた土器を慎重に窯の中に並べ、その周りにミアが集めてきた薪をくべる。


「いいか、最初は弱い火で、ゆっくり温度を上げていくんだ」


俺は、火の番を任された年長の子供に指示を出す。

パチパチと薪がはぜる音と共に、窯の中の温度が徐々に上がっていく。


子供たちは、固唾を飲んでその様子を見守っていた。

自分たちの作ったものが、今、未知の過程を経て生まれ変わろうとしている。その期待と不安が、彼らのオーラを揺らめかせていた。


数時間が経過した。

窯の中は、薪が燃える赤い光で満たされている。


「カイ、まだか?」


ダンが、待ちきれないといった様子で尋ねる。


「…そろそろだ」


俺たちは火から薪を取り除き、窯が自然に冷えるのを待った。

そして、ついにその時が来た。


俺は、まだ熱い窯の中から、火ばさみ代わりの木の棒で、焼けた土器を一つ取り出した。


それは、いびつな形をした、赤茶色の塊だった。

だが、粘土だった時とは明らかに違う。叩くと、コンコンと硬い音がする。


「…できた…」


トムが、震える声で呟いた。


「できたぞー!」


次の瞬間、子供たちの間から、今までにないほどの大きな歓声が上がった。

成功だ。俺たちの最初の土器が、完成したのだ。


残念ながら、いくつかの土器は焼成中に割れてしまっていたが、半分以上は無事に器としての形を保っていた。


「やったな、カイ!」


ダンが、俺の肩を力強く叩く。その顔は、満面の笑みだった。


俺は、完成した土器の中で一番大きなものを選び、スティンキング・リバーから汲んできた水を注いだ。そして、それを再び火にかける。


やがて、水がぐつぐつと沸騰し始めた。


俺は懐から、市場で拾い集めた野菜のクズや、骨のかけらを取り出し、鍋の中に放り込む。


すぐに、香ばしい匂いが立ち上った。


「さあ、できたぞ。俺たちの最初のスープだ」


俺は、小さな土器にスープを注ぎ、子供たち一人ひとりに手渡していく。


熱いスープを、子供たちは火傷しそうになりながら、夢中で啜った。

ただの塩味のスープだ。だが、彼らにとっては、今まで口にしたどんなご馳走よりも美味しかったに違いない。


温かいスープが、冷え切った身体に染み渡っていく。

子供たちのオーラが、幸福を示す黄金色に輝き、倉庫全体を温かい光で満たしていく。


俺のWPが、急速に回復していくのを感じた。


これが、俺たちの手で掴み取った、最初の「文明」の味だった。

そして、俺たちの共同体――「カイ・ファミリー」が、名実ともに誕生した瞬間でもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る