第9話:土器作りと小さな窯
「よし、始めるぞ!」
トムが、まるで熟練の職人のような顔つきで宣言した。
彼の前には、俺が指示して作らせた平らな木の板が置かれ、その上にはスティンキング・リバーから採取してきた粘土が鎮座している。
「まず、この土から小石やゴミを取り除くんだ。水で少しずつ洗いながらな」
俺は前世の陶芸体験教室の記憶を引っ張り出しながら、トムに手順を教える。
トムは驚くべき集中力で、粘土を精製していく。他の子供たちも、興味津々でその作業を見守っていた。
「次に、よくこねる。土の中の空気を抜くためだ。これをやらないと、焼いた時に割れちまう」
トムは、小さな身体全体を使って、一生懸命に粘土をこねた。その額には汗が光っている。
その間に、俺とダンは窯の準備を進めていた。
ダンが見つけてきた倉庫裏の窪地は、火を使うにはうってつけの場所だった。俺たちは地面をさらに掘り、周囲を石で囲って、簡易的な窯を築いた。
「カイ、本当にこんなんで焼けるのか?」
「ああ。完璧なものは無理だが、水を沸かすくらいなら十分なものができるはずだ」
やがて、トムが粘土の塊をいくつか持ってきた。
「カイ、できたぞ!」
「よし。じゃあ、いよいよ形作りだ」
俺は、まず手本を見せる。粘土を紐状に伸ばし、それを渦巻きのように積み上げていく「巻き上げ」という技法だ。これなら、ろくろがなくても比較的簡単に器の形が作れる。
「すげえ…」
子供たちから感嘆の声が漏れる。
トムも、ミアも、そしてリナまでもが、見よう見まねで粘土をこね始めた。
形はいびつで、分厚かったり薄かったり、お世辞にも上手とは言えない。だが、子供たちの顔は真剣そのものだった。彼らのオーラが、創造の喜びに満ちた明るい黄色に輝いている。
俺のWPが、その光を浴びてじんわりと回復していくのを感じる。
数時間後、俺たちの前には、大小さまざまな形の土器が並んだ。
「これを、今から一日、日陰でゆっくり乾かす。急に乾かすとひび割れるからな」
俺は、完成した土器を倉庫の隅に運びながら言った。
「そして、明日、いよいよ火を入れる」
子供たちは、自分たちが作った初めての「作品」を、宝物のように眺めていた。
その夜、倉庫の雰囲気はいつもと少し違っていた。
空腹と寒さは変わらない。だが、そこには明日への「期待」という、今までなかった感情が満ちていた。
俺は、その温かいオーラに包まれながら、静かに目を閉じた。
この小さな成功体験が、彼らの心を少しずつ変えていく。
生きるための技術だけじゃない。生きるための「希望」を、俺は彼らに与えなければならない。
それが、俺の新しいケアプランの核心だった。
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