第15話 決意
陽斗は自分の叫び声で目を覚ました。
驚きのあまり既に起きていた
「…随分と魘されていたようだが、悪い夢でも見たのか?」
洗面台から出てきた
「…八雲…俺、まだ帰って来れない」
「……」
悲痛な声に返される言葉はなく、涙を拭おうとした陽斗の手のひらには、赤いものがべっとりと着いているのが見えるだけだ。
「憶えておけ。おまえの帰る場所は、何時だってすぐ近くにある」
彼は何時になく優しい口調でそう言うと、手を差し伸べ陽斗の目元に溜まった涙を指先で拭った。その腕に
「ありがとう…次あんたの手を握るのは、俺の目が醒めた時だな」
視界の中心にいる
× × ×
「っ……
「…はると、だいじょうぶ…?」
「ン…ここはどこだ…?写真館か…ホテルか?崑崙山か?」
「何を寝ぼけてるんだ…置いていくぞ」
聞き覚えのある声は
「…はぁ、生き返った気分…」
「そのまま目覚めない方が良かった、などと言うなよ」
「分かってるよ。俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ」
陽斗は夢の中で見た光景を、二人に伝えようか随分と迷った。しかし口に出せば現実になってしまいそうな気がして、何も言わずに寝台から立ち上がり大きく伸びをする。
ふと自分の手の平を見つめるが、あの生温かい感触もこの手の中から命が消えゆく瞬間も、未だに鮮明なまま脳裏にこびりついている。
自分がやらねばならないことが何なのかは、まだ詳しくは知らない。しかしその時が来たら逃げ出さず、目の前を直視しなければいけないのだということは分かっていた。
「シャオさん、あんたに何かあった時は俺が助けるから」
「…いきなりどうした?まだ酔っているのか」
「いいや、守られてばかりは嫌なんだよ」
「はると…?」
「その代わり俺には俺のできることしかできないからさ、不格好でも笑わないでくれよ」
昨晩まで何かを抱えていた彼とは打って代わり、腰の脇に両手を当てて憑き物が堕ちたかのように笑っている。これこそが彼らしい表情なのだと、
「…どうやら、元に戻ったようだな」
「はると、元気になった?」
「ああ!…二人とも、心配かけてごめんな。少し寝過ぎたみたいだ」
「元気になれたら良いよ!お腹すくと元気が枯れちゃうから」
「じゃれてないで行くぞ。…この会話、既に何度か聞いた覚えがあるな…」
「あれ?そうだっけ。なぁシャオさん、山に入った後…気をつけた方がいいかも。確証はないけど、もしかしたら待ち伏せされてるかも知れない」
「えぇ?待ち伏せ?結界の中は簡単に入れないぞ」
「その根拠は何だ」
「…おまえの勘を信じるからな。……何も居なかったら尻を抓る」
「ああ!尻を抓るでも尻叩きでも何でも…って
「天兄怒るぞ~!」
「ふ…その程度で怒るやつではない」
三人が部屋の出口に向かうと、陽斗は既に荷物が纏めて置かれている光景を見て
「もしかして…俺が寝てた時に全部…?」
「ああ。夢の中で忙しそうだったからな」
「え⁉」
「…
「……」
陽斗はそれ以上何も言えず、
× × ×
「では、お気をつけてくださいまし」
「お世話になりました!」
「また近いうちに来る」
「またねぇ~」
三人は宿の女将に見送られ、崑崙山へ向かう道を歩き始める。
宿から離れた場所で一度足を止め、辺りに人が居ないことを確認すると道端の叢に入った。
「
「こん…なんの事だ?」
「とにかく猫になろう。それがいい。そうするべきだ」
「はると…酔って頭打ったの…?」
「俺はすこぶる元気だぞ」
「…
「今度のは大丈夫だよ!見てて…」
先程まで
「子猫じゃん!」
『小さくなりすぎた~!』
「なんだよお前ちくしょう…かわいいな…」
「ふふっ…おいで」
「よしよし。シャオさんもニャンコの可愛さを思い知ったか…はぁ~いいね最高の笑顔だ…」
子猫を愛でる
「この大きさになった
「素直に可愛いって言えばいいじゃん」
『おいらは可愛くないぞ!』
『やっぱりにんげんの姿は疲れるなぁ…』
「おおきくなったおまえも可愛いよ。もちろん格好いいのもあるけどな」
『えっへん!』
「…よし、荷物を載せたら再出発しよう」
いつもの彼に戻った
荷物を載せ終えると先に陽斗が乗り込み、手を差し出して
「…おまえの背中は俺が護るよ。
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