一輪の赤い花を胸に帰る少女、その花が唯一の慰めであることが丁寧な描写から滲んでくる物語でした。日常の厳しさや痛みが言葉にならない形で描かれていて、家の中の音や花びらの欠けを通して、少女の置かれた環境がそっと伝わります。けれど、秘密の水瓶に世話されるその花の存在が、彼女にとっての小さな安らぎであり、居場所であることもまた明確に感じられました。胸の奥にそっと温度が残る。そんな優しい余韻を持つ掌編だと感じました。