ある薬局での話(X/F、パドル、スパンキングケア用の薬の話)

この世界では、女性がスパンキングを受けることは日常であり、それに続く「スパンキングケア」もまた当たり前の習慣になっている。

薬の開発には国の補助があるため値段は手頃で、どの家庭にも一つ以上は常備されている。


どこの街にも必ずある薬局、その店内には「スパンキングケア用品」という大きなPOPが掲げられている薬局が多くあり。

湿布薬・塗り薬・飲み薬と種類は多岐にわたり、一般的な鎮静剤や湿布のコーナーに混ざって置かれている店もあれば、スパンキングケア専用の棚を独立させている店もある。


薬には大きく分けて三つのタイプがある。

「赤みも痛みも和らげるタイプ」――最も数多くそして利用している人も多く、この世界の必需品になっている。

「腫れを引かせて痛みを残すタイプ」――種類は少ないが厳しいお仕置きによる傷は癒やすけど反省を深めたい時に利用される。だがそれも関係なしに敢えてこのタイプの薬を使う者や施設や店もある。


さらに「腫れも痛みも即座に消す薬」も存在するが、それは病院などの施設専用であり、市販はされない。

ただし、ケアは必ずしもお仕置きした側が行うものではない。

お仕置き後は痛みを残すことで反省を促す事が最も多いのでその場合は叩かれた女性は帰宅後ケアする事が最も多い。

一方で、お仕置き後の授業や勤務に差し支える時や帰宅が困難なほど厳しいお仕置き、更に毎日のようにお尻を叩かれるような場合には必ず痛みが残るタイプの薬が使われる事が多い。


 ***


とある薬局の湿布薬コーナーの棚の前で、女性は腕を組んで悩んでいた。


(せっかくなら新発売の“スパンキングケア専用強力冷感タイプ”の湿布……んーでも、私はそこまで頻繁に叩かれるわけじゃないし……無難にロングセラーの湿布にする?)


視線の先には、新発売のスパンキングケア商品とロングセラー商品が並んで陳列されていた。


新発売の商品のパッケージには【お仕置きの痛みと腫れ即効!】と大きく書かれ、赤く腫れたお尻のイラストに湿布が貼られていく図が描かれている。

隣に置かれたロングセラーの商品は、もっと控えめで【打撲・捻挫・筋肉疲労・スパンキングケア】と書かれているだけでデザインもイラストはなく商品名だけのシンプルなデザインで昔から信頼されている万能薬だ。


(……間違って“痛みを残すタイプ”を選んだら大変。反省用なんて普段の生活には絶対いらないし……)


彼女はうーんとどちらも手にとってパッケージの裏面もよく見つつ他のもどうだろうと棚を見たりする。

やっぱりこのどっちかだなと悩んでいると、頭上のモニターが切り替わり、手に持つ新商品のCMが流れ始めた。


 ***


画面に映るのは若い女性。机に両手をつき、涙を流しながら叩かれていた。

――赤く腫れたお尻にバチン!とパドルが振り下ろされる。


「いたいっ! ごめんなさい!」


CMの演出上叩いている人の姿は見えない。ただ、容赦ないスパンキングの音と、必死に謝る声だけが響く。


《痛かったお仕置きの痛みに……》


ナレーションと同時に画面が切り替わり、真っ赤なお尻に新発売の湿布が貼られていく。


《有効成分がすぐに効く!》


さらに場面は夜。パジャマ姿の同じ女性が、ベッドに腰を下ろす前にお尻をそっと撫でて微笑む。


「もう痛くない!」


そう言って安心した顔でベッドに潜り込むところで、画面いっぱいに《新発売!》の文字が踊った。

そして今度はスパンキングケアとは関係のないCMが流れ始める。


 ***


(……やっぱりこういうCMって、本当に叩かれてるんだよね……しかも仕事で叩かれたら手当が出るのが当たり前みたいだけど、私は無理。絶対無理……!)


女性は顔を熱くしながら、こうなればとスマホを取り出し新商品の口コミを検索した。


『新発売だったから試した。まだスパンキング後には使ってないけど、遊園地で遊んだあとの足の疲れに貼ったら効いた』

『夜にお仕置きされちゃって寝る前に貼りました。翌朝には赤みは消えてましたが……痛みは少し残りました』

『冷感がかなり強い。貼った瞬間スースーして沁みたけど、翌日は痛みがなくなったのでおすすめ』


どれも現実的で、いかにも使った人の声だった。確かに効果はありそうだ。


(……そういえば、私が最後に叩かれたときも……あのCMの人と同じだったな……)


ふと、記憶が蘇る。

机に手をつかされ、パドルでお尻を叩かれ、涙声で「ごめんなさい」と繰り返したあの夜。

パンッ、パンッと響いた音と、火を噴くようなお尻の痛み――思い出しただけで顔が赤くなる。


「はぁ……」


小さく息を吐き、彼女は手に取ったロングセラー商品を棚に戻した。

羞恥と痛みの記憶が蘇ったからこそ、決意は固まる。


「……やっぱり、新しい方にしよう」


そう決心してレジへ向かう足取りはどこか軽く見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る