虐げられ追放された悪役令息Ω、実は氷の皇太子αの運命の番で、めちゃくちゃに溺愛されています
藤宮かすみ
第一話「悪役令息の自覚と絶望的な現実」
ガンガンと割れるように痛む頭と、燃えるような体の熱。
どれくらいの間、意識を失っていたのだろう。薄く目を開けると、見慣れた豪奢だが冷たい天蓋が目に入った。
「……ここは……」
僕、エリオット・アシュベリーは、公爵家の次男。しかし、その立場とは裏腹に、家族からは存在しないものとして扱われている。食事はろくに与えられず、義母や義兄からは罵倒と暴力を受ける毎日だ。
高熱を出したところで、誰も心配などしてくれない。きっとこのまま静かに死んでいくのだろう。そう諦念に満ちた思考が頭をよぎった瞬間、脳内に奔流のごとく、全く別の人生の記憶が流れ込んできた。
(……あれ……?)
日本の、平凡な会社員だった記憶。本棚を埋め尽くすほどのBL小説。そして、その中でも特にお気に入りだった一冊、『星降る夜に君と』というタイトルの物語。
――そうだ。この世界は、あの小説の世界だ。
そして僕は、主人公であるヒロインを虐め抜き、最後には婚約者の王子から断罪され破滅する『悪役令息』エリオット・アシュベリーその人だった。
なんてことだ。ただでさえ地獄のような毎日が辛いというのに、未来にはさらなる絶望しか用意されていないなんて。
小説の中のエリオットは、嫉妬心からヒロインのリリアナに数々の嫌がらせを仕掛ける、傲慢で性悪な貴族として描かれていた。しかし、今の僕にはそんな気力も理由もない。
虐げられ続けたせいで、僕は感情の起伏すら乏しくなっていた。ただ、静かに、誰にも関わらず、息を潜めて生きていたいだけなのに。
さらに、僕にはこの家の誰も知らない致命的な秘密があった。
僕は男でありながら子供を産むことができる『オメガ』なのだ。この世界では、オメガは希少で愛されるべき存在とされる一方、力あるアルファの支配下に置かれ、政略の道具にされることも少なくない。
僕の父である公爵はそれを疎み、僕がオメガであることを隠して『ベータ』として育てた。毎日飲まされる苦い薬は、オメガのフェロモンを抑制するためのものだったのだ。
前世の記憶と、この世界の過酷な現実。二つの重圧が、か細い僕の心を押し潰そうとしていた。
窓の外は暗い。絶望という名の闇が、僕の未来をどこまでも覆い尽くしているようだった。
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